「縮小型事業承継」とは(中)出版社のケース

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写真はイメージです

C社は業歴50年以上の老舗出版社です。主に業界向けの情報雑誌や書籍を出版しています。過去の業績が順調であった事から、内部留保は厚く、本社ビルを所有する等、財務内容は健全な会社です。

しかしながら、近年では出版不況や当該企業が得意とする業界でも情報収集の媒体が紙からネットへ急速に変化して行きました。そのため看板の雑誌が部数を減らして、業績も徐々に悪化、利益もほとんど出ない状況に陥りました。

C社も変化に対応すべく電子書籍等の動きに取り組んでいますが、ネットに対応できる人材の不足や資金面での制約等から十分に対応できているとは言えない状況でした。

M&A話が進行中

長い業歴の中で社長は親族承継から役員承継へ変化していました。その中で、現D社長も就任10年近くとなり引退時期が到来しました。

今までの社長は、銀行から借入を行い、歴代の社長から株式を取得してきました。D社長も優良な財務基盤と好調な業績から株式の価値が高かった事から数千万円の借入を行い、先代の社長から株式を取得しました。

先代の社長までは自分の就任期間に業績を伸ばし、次の社長により高い価格で株式を引き継ぎ、キャピタルゲインを得てきました。しかし、事業環境の激変により業績が急速に悪化する中、数千万円で株式を引き受ける役員が現れませんでした。D社長は貧乏くじを引いた形になってしまいました。

そのため、D社長は社内での承継をあきらめ、M&Aを決断しましたが、買手候補は現れませんでした。

同業社からみると編集者や雑誌については魅力があるものの、利益がほとんど出ていない状態では、本社等の資産を含んだ価格では到底手が出ない価格になってしまう事が原因でした。

私たちのファンドにはC社のFA(フィナンシャルアドバイザー)より相談がありました。一般的な事業承継ファンドでは、事業の成長性やキャッシュフローの改善余地等に着目して投資を行います。端的に言うとPL(損益計算書)と将来性について見ています。

それに対し、私たちのファンドでは、どちらかというとBS(バランスシート)を投資のポイントに置いています。C社のFAはこのようなファンドの特性を理解していたので、私たちのファンドへ相談したのです。

私たちのファンドは、縮小型事業承継での対応が可能と考え、投資を決断、D社長から株式を取得致しました。C社はPLについては苦戦しているものの、業界では知られた雑誌のタイトルを複数所有して、編集者も優秀な人材が揃う等、事業面でキラリと光る資産を持っています。

しかしながら、都市に本社を所有する等、事業と資産がアンバランスな状態なため承継が進まないと考えたのです。

縮小型事業承継の手法では、事業と資産を分離する事から始めます。C社の場合、出版の仕事は賃貸でもできるので事務所を本社から移転しました。そして、本社を売却して借入金の返済等に充当しました。

また、赤字の雑誌については廃刊とし雑誌の原価の見直し等を行い、収益構造の改善も並行して行いました。この結果、利益はまだ少ないながら、BSの軽い会社となりました。事業価値と資産価値が一致してきたことから、引受先候補が現れ、現在、M&Aの話が進行しています。

文:青山財産ネットワークス

青山財産ネットワークス

「財産の承継・運用・管理を通じてお客様の幸せに貢献する」ことを経営目的とする、総合財産コンサルティングファーム。2021年に創業30周年を迎えた。近年、高まっている財産承継・事業承継・財産運用のコンサルティングニーズに対応し、日本一の総合財産コンサルティングファームを目指している。


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