ストライク<6196>は21日、東京都内で第19回 Conference of S venture Lab.を開いた。第1部のトークセッションでは「イノベーションのジレンマの乗り越え方」をテーマに、富士フイルムで第二創業となった化粧品事業の立ち上げを指揮した一般社団法人イノベーション アーキテクトの中村善貞代表理事が、大企業の社内起業を成功させるカギについて解説。事業創造アクセラレーターのゼロワンブースターを創業した鈴木規文会長がモデレーターを務め、議論を盛り上げた。
富士フイルムでは写真フィルム需要が落ち込んだ際に、様々な新規事業が立ち上がった。中でも最も注目されたのが「トータルヘルスケアカンパニー構想」。その第一歩となったのが化粧品事業だった。
全くの新規事業に乗り出したと言われる化粧品事業だが、フィルムの素材でもあるゼラチンを利用したもので、「非連続の連続だった」(中村代表理事)そうだ。実は「フィルム全盛期からやっていたものを加速した事業が多い」(同)という。追い詰められてから新規事業に乗り出すのではなく、余裕のあるうちに新しいことにつながる事業の芽を摘まずに残していくことが重要なのだ。
それでも巨大組織で新たな事業を立ち上げるのは容易ではない。モデレーターの鈴木会長は「四半期決算が導入された後に、日本でイノベーションを起こせる会社はほとんどなくなった。しかし、富士フイルムだけはガラッと事業ポートフォーリオを変えた」と指摘した。
鈴木会長は「富士フイルムのようなDisruptive Innovation(破壊的イノベーション)を起こすためには、組織ではアウトとされる逸脱行動が必要だ。これは偶然に起こったものではなく、富士フイルムの組織内で再現性がある出来事だったのではないか?」と質問。
これに対して中村代表理事は「(逸脱行為を恐れぬ)心理的にタフなイノベーターが必要なのは間違いない。フィルムが好調な時代には会社に余裕があり、イノベーターが変わったことをやっていても周囲からは全く気にされなかった」と答えた。そうしたイノベーターが化粧品ビジネスを育てたのだ。
とはいえ、全員が素人の集団で新事業を立ち上げるのは容易ではない。化粧品メーカーの関係者から情報を集め、コンサルタントからも意見を求めた。だが、中村代表理事は「社内の人間が事業について勉強する方が効率的だった」と振り返る。「最も重要なことは、お客さまが教えてくれた」(同)という。
化粧品事業も最初の商品は売れなかったという。ところがその次に発売した商品はヒットした。そこで顧客の意見を分析したところ「化粧品に何が求められているか」といった一般的なアプローチではなく、「富士フイルムの化粧品に何が求められているか」を知るのが重要だと分かったという。それが判明したことで、化粧品事業は軌道に乗った。
もっとも、新規事業はすぐに利益が出るものではない。そこで化粧品事業部門は数字以外のKPI(重要業績評価指標)を定め、社内評価よりも社外評価の獲得を狙ったとも。
新規事業のリーダーに求められる資質として、写真フィルム事業からの転換を決断した古森重隆元会長兼CEO(最高経営責任者)の決断力を挙げた。「古森さんは動物的直感をお持ちで、情報量が少なくても決めてくれた。リーダーがいつまでも情報がないかとか、もっと調べろよなどと言っていたら、いつまでもスタートできない」(同)。日本の大企業が祖業を切り捨てての第二創業に成功しにくいのは、リーダーの決断力にも問題がありそうだ。
さらに富士フイルムのバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)事業は、M&Aで手に入れた会社での技術融合(シナジー)が成果を出しており、新規事業のポートフォーリオに多様性が必要なことが分かる。
第2部のスタートアップ企業によるピッチでは、タンソーマンGXの福元惇二社長が「CO2排出量可視化システムの展開、補助金導入コンサルティング」、スカイファームの木村拓也社長兼CEOが「施設特化型モバイルオーダーシステム『NEW PORT』の開発・運用」、テックピットの山田晃平社長兼CEOが「IT職種のスキル可視化、リスキリングを支援するサービス『 Techpit for Enterprise』」について説明した。
次回の第20回 Conference of S venture Lab.は3月6日、大阪市でライトアップベンチャーズの中村忠嗣社長、大手総合スポーツ用品メーカーのミズノから出向起業したDIFF. の清水雄一社長による「関西のVCと語る、事業会社発スピンアウト・スタートアップのこれから」をテーマとするトークセッションと、スタートアップによるピッチを開く。
文:M&A Online
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