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ロシア侵攻を予感していたかのような長編映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』

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(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

戦争に翻弄されながらも、懸命に生きる人々を描く『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』

まるでロシアによる侵攻を予感していたかのような作品

2022年2月、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった。ウクライナは欧米の支援を受けながらロシア軍への抵抗を続け、現在、この戦争で7000人を超えるウクライナ市民の命が失われた。

ロシアが本格的に侵攻する前、ウクライナでは長編映画の制作プロジェクトが動き出していた。第二次世界大戦下のウクライナを舞台にした『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』(7月7日より全国順次公開)という作品である。

戦争は過去のできごとではない。今回の侵攻が始まることを予感していたかのようにメガホンをとったオレシャ・モルグネツ=イサイェンコ監督は、「老いも若きも、ウクライナに生きる人々の中に戦争や悲劇的な出来事を経験せずに生き延びている人は一人もいません」と訴える。

この映画で描かれていることは、すべて、いまのウクライナで起きている。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』画像1
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

第二次世界大戦中、出会った3家族の過酷な運命を描く

1939年1月、ポーランド・スタニスワヴフ(現在はウクライナ領で”イヴァーノ=フランキーウシク”という呼び名になっている)。この街に暮らしているユダヤ人家族の母屋に、店子としてウクライナ人の音楽一家とポーランド人の軍人一家が引っ越してきた。

ウクライナ人一家の主婦、ソフィアは音楽学校を卒業し、子どもたちにピアノや歌を教えている。一人娘のヤロスラワは音楽家の両親の影響で美しい声を持ち、歌うことが大好き。特にウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」が得意だ。

ユダヤ人一家、ポーランド人一家にも、それぞれヤロスラワと同世代の娘がいる。最初は文化や宗教などの違いから、ぎくしゃくしていた三家族だったが、「キャロル・オブ・ザ・ベル」の歌や音楽を通して、次第に心を通わせ、一つの家族のように助け合う。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』画像2
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。第二次大戦が開戦し、スタニスワヴフの街はソ連によって侵略され、続いてナチス・ドイツによる侵攻、再度ソ連に占領されることに。ポーランド人夫婦とユダヤ人夫婦は兵士たちに連行され、それぞれの娘が残された。子どもたちの歌の先生でもあるソフィアは、戦争に翻弄されながら、自分の娘とともにユダヤ人の娘ディナ、ポーランド人の娘テレサの3人の娘たちを守り通して生きていく――。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』画像3
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

母親でもある監督が映画にこめた想いとは

これまでドキュメンタリーを主戦場としてきたウクライナ人のオレシャ・モルグネツ=イサイェンコ監督は、現在もキーウに住み、子を持つ母親でもある。

彼女は本作にこめた想いを、自分や家族の経験をもとにこう語っている。「映画で描かれたように、実際の戦争において、女性や子供は常に戦争の人質です。妊娠中だった私の姉と姪は、占領地の地下室に28日間過ごすことを余儀なくされました。だからこそ私は、私たちの映画が記憶から消し去られてはいけない過去を反映したものであり、未来はウクライナ人と世界にとってより良きものになるはずだと考えています」

映画の中では、ただ普通に日常を生きてきた人々が次々に迫害され、子どもと女性が取り残されていくようすがリアルに描かれている。お金もない。食べ物もない。頼る人もいない。生きる術もない。そうした状況を伝え、「人間性においてもっとも重要な宝物は、“文化と伝統”であることを提示したい」と監督は語る。

「戦争は怖い……でも、子どもたちを渡すものですか」

震えながらも強い決意を語るウクライナ人の母親、ソフィアの言葉がずっと頭から離れない。

「ウクライナ人がここに存在しているよ」希望の声を届ける歌

本作の大きな軸として、さまざまな場面で歌われているのが、ウクライナに古くから伝わる新年の歌「シェドリック」だ。映画『ホーム・アローン』(1990年)内で歌われたことがきっかけとなり、今や世界でポピュラーなクリスマスソングの一つとして知られる「キャロル・オブ・ザ・ベル」の基になった民謡である。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』画像4
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

駐日ウクライナ特命全権大使のセルギー・コルスンスキー氏は、この歌には、ウクライナの歴史や人々の想いが色濃く反映していると語る。「ウクライナは古くから侵略され続け、特にロシア革命以降、ソ連とドイツから脅かされ続けてきました。その後の第2次世界大戦下では最も激しい戦闘地域のひとつでした。置かれた立場も非常に厳しく、やはりソ連やナチスに侵略され、大戦が終わってもソ連に侵略されたのです。この歌の基になったのは、ウクライナ人がここに存在しているよと、希望の声を届けてくれるウクライナに伝わる民謡です」

ヤロスラワを演じるポリナ・グロモヴァの歌声は、天使のように純粋で、聴く者すべてを魅了するだろう。過酷な戦火や激動の時代において、彼女の歌は、大切なものを守りぬく一筋の希望のように、筆者の心に浸透した。

文:小川こころ(文筆家/文章スタジオ東京青猫ワークス代表)

<作品データ>
出演:ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ
脚本:クセニア・ザスタフスカ 撮影:エフゲニー・キレイ 音楽:ホセイン・ミルザゴリ
プロデューサー:アーテム・コリウバイエフ、タラス・ボサック、マクシム・レスチャンカ
2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/シネマスコープ/122分/ 原題:Carol of the Bells
配給: 彩プロ 後援:ウクライナ大使館 映倫G
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020
7月7日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』ポスタービジュアル

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