「ウィキリークス」を創った男『フィフス・エステート/世界から狙われた男』

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経済や金融業界のリアルな姿を垣間見たいのなら、映画がおすすめ! 実話をベースにした作品ではなおさら世の中の経済事件を理解するのにも一役買ってくれる。今回は、現代の情報化社会に一石を投じたおすすめの1本を紹介する。

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内部告発サイト「ウィキリークス」の創始者を描いた作品『フィフス・エステート/世界から狙われた男』

「ジュリアン・アサンジ容疑者を逮捕」――2019年4月11日、イギリス警察が内部情報告発サイト「ウィキリークス」の創始者を逮捕したというニュースが世間を賑わせた。

「ウィキリークス」とは、アメリカ政府をはじめ企業、宗教団体など、世界中のさまざまな情報機関がひた隠しにする機密情報を公開する内部告発サイト。その創設者で編集長、広報担当者として知られるジュリアン・アサンジの実話をモチーフにしたのが社会派サスペンス映画『フィフス・エステート/世界から狙われた男』(2013)だ。日本では未公開である。

本作の主人公・アサンジを演じたのは、『SHERLOCK シャーロック』などで人気のイギリス人俳優ベネディクト・カンバーバッチ。憂いを帯びたミステリアスな眼差しや白髪の風貌、ときに激しく、ときに繊細に揺れ動く心情や言動など、迫真に迫る演技は、観る者を釘付けにする。

報道の自由とは?正義とは?モラルとは?。現代の情報化社会に一石を投じる作品だ。

<あらすじ>

2007年。ドイツ人の天才エンジニア、ダニエル(ダニエル・ブリュール)はオーストラリア人の凄腕ハッカー、ジュリアン・アサンジと出会う。意気投合した二人は、アサンジが創り出した、インターネット上で世界中の政府・企業・宗教などに関する機密情報を暴くサイト「ウィキリークス」の活動に取り組むことに。

「世の中にはびこる不正や理不尽な実態を見過ごすことはできない」と語るアサンジの熱意に魅了されたダニエルは、正義感をかきたてられ、恋人もそっちのけでシステムの構築や告発内容の裏付けに全力を傾ける。

ウィキリークスは順調に発展し、世界的な新聞社やTV局をはるかに上回る情報を発信するうちに、暴露する機密情報はどんどん過激で危険な内容になり、ついに米中央情報局(CIA)の監視対象となってしまう。

そんな中、アサンジたちはアメリカの最高機密の一つである、中東戦争の記録を手に入れた。「すべての機密を公開しよう」と声高に主張するアサンジに対し、「人命に危険をおよぼす個人情報などは公開すべきではない」と反対するダニエルだったが……。

「ウィキリークス」は“第5の権力”になり得るのか

「立法」「行政」「司法」に続く“第4の権力”は「ジャーナリズム」、「メディア」だといわれる。本作の原題は「THE FIFTH ESTATE(第5の権力)」。「ウィキリークス」は、メディアの先にある「第5の権力」になり得ることを示唆している。

「ウィキリークス」は造語によるネーミングである。オンライン百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」に見られるように、「ウィキ(Wiki)」はウェブ上のコンテンツや記事を世界中の人たちが協力して作り上げる集合知による仕組みを表し、「リークス(Leaks)」は情報漏えいを意味する。つまり、ネットを介して政府や企業の内部にいる人が生の情報を公開し、多くの人の目にさらされることで、真実を明るみにしようとするのが目的だ。

映画の前半に描かれる、アサンジの熱い使命感に、観る者は共感し、心を揺さぶられる。しかし、社会における「ウィキリークス」の存在感が増してくると、アサンジの心の奥に潜んでいたエゴや野心のようなものが少しずつ姿を現し、彼の言動にさまざまな疑問が生じるようになる。

報道の自由は守られるべきだ。とはいえ、モラルを無視して情報を暴露し、人命が危険にさらされるとしたら、本末転倒だ。

映画の中で、アサンジが相棒のダニエルに、こんな胸の内を吐露するシーンがある。「ぼくらが戦う暴君には、人も金も武器もあるが、ぼくにあるのはサイトと数個の偽造アドレスと、君だけだ。……信じていいか?」

お互いをリスペクトしあい、足りない部分を補完し合いながら、最高のバディとして多くの仕事をしてきたアサンジとダニエルだったが、映画の後半になると、そんな二人の関係に、少しずつ溝が生まれる。

インターネット社会における「言論の自由」とは

主人公のモデルとなった本物のアサンジは2012年、性的暴行容疑でスウェーデンへ送還されるのを回避し、ロンドンのエクアドル大使館に亡命を求め、7年に渡り籠城を続けた。エクアドルは2019年に彼の亡命資格を取り消し、アサンジはイギリス警察によって連行され、現在はロンドンの刑務所に留まっている。

今後、アサンジの身柄は、最大175年の懲役刑が科されるスパイ容疑により、アメリカに引き渡されるのではないかと動向が注目されている。

「ジャーナリズムは犯罪ではない」「アサンジを解放せよ」とプラカードを掲げたアサンジの支持者たちは、ロンドンやワシントンでデモを行っている。インターネット社会における「言論の自由」や「表現の自由」とは何を指すのだろうか。

SNSやブログなど、だれもが自由に情報発信できる時代に、情報の正確さや世の中に与える影響力などをあらためて考えさせられる。

文:小川こころ/編集:M&A Online編集部

作品データ
原題:The Fifth Estate
2013年製作/128分/アメリカ・ベルギー合作

フィフス・エステート


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