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6月23日公開『大名倒産』の制作裏話と映画ビジネス

※この記事は公開から1年以上経っています。
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(C)2023映画『大名倒産』製作委員会

石塚慶生プロデューサーが語る『大名倒産』の制作裏話と映画ビジネス

越後・丹生山(にぶやま)藩の鮭売り役人の息子として平穏に暮らしてた主人公がある日突然、徳川家康の血を引く藩主の跡継ぎだと知らされる。庶民から一国の殿様へと華麗なる転身…と思ったのもつかの間、実は借金100億円を抱えるワケありの貧乏な藩だった。

映画『大名倒産』は、ベストセラー作家・浅田次郎の時代小説(同名・文春文庫刊)が原作。主人公・松平小四郎役を芸歴27年のキャリアと確かな実力を持ち、連続テレビ小説「らんまん」(NHK)でも主人公を演じる国民的俳優・神木隆之介がコミカルに演じる。

(C)2023映画『大名倒産』製作委員会

小四郎の幼馴染・さよ役に杉咲花、うつけ者だが心優しい小四郎の兄・新次郎役に松山ケンイチ、丹生山藩の勘定奉行・橋爪佐平次役に小手伸也。小四郎の育ての父・間垣作兵衛役に小日向文世、母・なつ役に宮﨑あおい。小四郎の教育係・磯貝平八郎役に浅野忠信。そして、小四郎を藩主に任命する実の父、一狐斎役に佐藤浩市と豪華なキャストが脇を支えた。

監督は『ロストケア』『水は海に向かって流れる』と公開作が続く前田哲。脚本は映画『七つの会議』やドラマ「半沢直樹」の丑尾健太郎と、ドラマ「特捜9 season2~4」「下町ロケット」の稲葉一広が共同で担当している。

6月23日”金”曜日に公開される『大名倒産』を企画立案した石塚慶生プロデューサーに、ポップな時代劇にしようと思ったきっかけやプロデューサーとしての役割と醍醐味、そして映画ビジネスについて、話を伺った。

映画は“この人が出ればヒットする”とは限りません

──時代劇を制作しようと思ったのはなぜですか

前田哲監督に勧められて、浅田次郎先生の「大名倒産」を読んだのがきっかけです。我が社(松竹)は何年かに1本、時代劇を手掛けていて、僕は『武士の献立』(2013)以来、しばらく時代劇を企画していなかったので、久しぶりに挑んでみたい気持ちもありました。

映画化が上手くいくときのパターンとして、“主役が頭に浮かぶ”ということがあります。この作品では前田監督も僕も共に、ぱっと、神木隆之介さんが思い浮かびました。

もちろん思い浮かんだからと言って、その人に出演していただけるわけではありません。「神木隆之介さんにお願いするためにも、まずはしっかりとした脚本を」ということで、脚本作りを始めました。

石塚慶生プロデューサーの画像
石塚慶生プロデューサー

脚本家を誰にお願いするか。これは前田監督から丑尾健太郎さんの名前が上がりました。前田監督は以前、『陽気なギャングが地球を回す』で丑尾さんと組んだ縁もありました。「半沢直樹」シリーズなどのお仕事をされている方ですが、僕は面識がなく、紹介していただきました。

そこからは前田、丑尾、私(石塚)、さらに時代劇に詳しい「下町ロケット」や「特捜9シリーズ」を手掛けた稲葉一広さん、そして我が社の脚本開発室のメンバーにも入ってもらい、それぞれの視点から意見を交換しながら、脚本を育てていきました。コロナ禍ということで、打ち合わせはいつもリモートでしたね。2年ほどかけて作り上げていきました。

──脚本化に苦労された点は

原作を脚本化する際、いわゆる映画の尺を考えると時間の制限があり、どうしてもキャラクターやエピソードの取捨選択が必要になってきます。変更に関して、原作者の浅田次郎先生にご了承いただくには「面白い」「なるほど」と言っていただける必然性のある脚本に練り上げなければなりません。

その代表例が「さよ」です。原作には登場しないキャラクターですが、映画の華であり、小四郎をサポートする存在として、原作に登場する何人ものキャラクターをミックスして作り上げました。

(C)2023映画『大名倒産』製作委員会

──これまで作られてきた時代劇と比べて、かなりポップな作品ですね

映画は“この人が出ればヒットする”とは限りません。キャストの組み合わせや公開のタイミングなどもある。外部環境を含め、不確定な要素ばかりです。

しかし、いまお客さんが何を求めているかを推測することはできます。コロナ禍以降、シニア向けの作品が少なくなっていますが、いまだからこそ笑って楽しめて明るい気分で映画館を出てもらいたい。そのために、登場人物みんなのわちゃわちゃ感と、爽快感のあるラストを如何に作るか。この点を最初から明確に意識しつつ、映画全体の世界観をポップにしていくことに決めました。

さらに、映画は時代性を反映するべきものだと思っています。浅田先生がすでに原作でSDGsや節約、困難な時代におけるリーダー論などのテーマを入れてくださっていたので、そのまま骨子として生かしつつ、楽しいシーンに仕上げて見せることにこだわりました。

映画はシンプルなビジネスモデル、「脚本・キャスト・出資」が柱

──企画が承認されるまでの流れは

企画にGOサインが出ることを「グリーンライトが点る」と言いますが、そのためには「精度が高い脚本」、「主要キャストの出演内諾」、それから「出資をしていただけるパートナー企業」という3つの柱が必要です。

出演キャストは主演の神木隆之介さんだけでなく、”トメ”と言われる、この作品でいうところの佐藤浩市さんやヒロインの杉咲花さん、神木さんを支える役どころの松山ケンイチさん、浅野忠信さんといった方々から内諾をいただきました。

次に出資ですが、映画は数億円規模のプロジェクトなので、投資していただける会社を見つけ、共同事業という製作委員会方式を取ります。

松竹の製作する時代劇ではテレビ東京さんにご参画いただくことが多いのですが、今回も作品の方向性やテイスト、キャスティングなどをテレビ東京さんに早めにプレゼンさせていただき、企画の初期段階から”前向きに”ということでやり取りを進めました。

いい脚本があればいいキャストが決まるし、そうなるとお金も集まる。非常にシンプルなビジネスモデルです。とはいえ、お互い営利企業ですから、現場サイドがOKを出しても、上層部の判子をもらわないといけません。3つの柱が揃ってようやく決定会議に提出し、製作が承認されるか決まります。

──決定会議の段階でボツになる可能性もあるのですね

映画制作だけではなく、どんな会社もそうだと思いますが、企画を世に出すためには事前の入念な下準備が必要です。僕ら企画部は作品を生み育てますが、販売は違う部署になります。たとえば、作品を広める宣伝部、劇場に営業をする営業部、DVDを制作販売したり海外に販売するメディア事業部などがあります。各部署のスタッフにも早めにお話しして、作品を理解していただいた上で決定会議を迎え、役員の判子をもらって、正式に“作ってよし”となるのです。

建築で例えるなら、プロデューサーは施工主である

──プロデューサーと監督の役割とは

マンションやダムの建築に例えるなら、監督はいいものを作ろうと腐心する現場監督のような役割です。現場監督がその建造物に適した鉄骨やコンクリートの調達先、腕の立つ職人を知っているように、映画の監督は優れた技術を持つカメラマンや照明技師などのスタッフを知っています。作品のクオリティを上げることが監督のミッションです。

一方、僕らプロデューサーは例えるなら施工主。「この予算で監督、ひとつ仕切っていただけますか」とお願いするところから始まり、作品をいかに流通させて売るかを考えるのが仕事です。

(C)2023映画『大名倒産』製作委員会

たとえば、天候など予定通りに撮影ができなかったら、それを別日にどうスケジューリングするかを現場の進行スタッフと監督がやり合うのですが、どうやってもハマらないとか、納期に間に合わないといったときにはプロデューサーが出ていくわけです。役者やスタッフとコミュニケーションを取るのが監督で、プロデューサーは後方支援に回るといった感じでしょうか。

どこかのペンキが剥げていて、美術部が忙しければ、「僕がやります」ということもある。キャストとスタッフは皆、映画を面白くするために集まっていて、ノリとしては、ある意味ずっと文化祭をやっているようなもの。映画を成功させるためには、プロデューサーは部署を超えた仕事をしてもいいと思っています。それが映画のルックでちゃんと形になっていれば携わる皆がうれしいですよね。現場ではとりわけ「ありがとう」というコミュニケーションを取り合うことで、作品は間違いなく1.1倍、1.2倍よくなると思っています。

(C)2023映画『大名倒産』製作委員会

──ほかのインタビューで「企画制作」と「宣伝営業」は両輪である、とおっしゃっていましたが

たとえば今回の「大名倒産」では、宣伝部から幾つかのポスタービジュアルを提案いただきました。「小日向(文世)さんには鮭を持ってもらった方がいい」とか、「宮﨑(あおい)さんに大根を持ってもらうと面白いね」とか、「小手(伸也)さんはやっぱり小判ですよね」など相談し、「じゃあ、この人たちのこういう表情を撮影中にスチールでも撮ろう」となりました。

監督は作品のことに一生懸命ですから、宣伝営業との架け橋になれるのはプロデューサーしかいない。宣伝部は宣伝部、営業部は営業部で考えることがあるだろうけれど、現場はこうなんだよ、と間を取っていきます。

石塚プロデューサーの画像
石塚慶生プロデューサー ©M&A Online

──プロデューサーの仕事は公開後も続くのですか

通常は(劇場)公開の終了後、半年くらいでDVDを出しますが、それでプロデューサーの仕事は一旦終わりになります。

ただ、評価が高かったり、興行的にいい成績を残せた作品はその後も映画館で再上映されたりします。それが僕の関わった作品の中では『わが母の記』(2012)と『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)です。この2本は今でも全国の劇場のどこかで上映されることがあります。それがすごくうれしい。あのときのみんなの苦労が報われた気持ちになります。

先日も秋葉原UDXシアターで『こんな夜更けにバナナ~』が上映されたのですが、お客さんから「初めてスクリーンで見ました」と言われました。

亡くなられた三浦春馬さんのファンだったけれど、上映中に(映画館へ)行けなくて、テレビでしか見たことがなかったそうです。いつかスクリーンで見たいと思っていたところ、今回、秋葉原で上映すると聞いて見に来たそうです。「本当によかったです」と言われて、ありがたく、感動しました。

──プロデューサーとしての醍醐味はなんですか

先ほどのお客さんとのやり取りもそうですが、僕にとっての醍醐味は作品を世に送り出し、作品を通じてお客さんとコミュニケーションが出来たときの達成感です。人生の記憶に残る映画であるということは、制作者冥利に尽きます。

プロデューサーの仕事は、最初の立ち上がりから最後の最後まで関われるので、いちばん面白い仕事だと僕は思っています。

実写の邦画は集客が難しい

──興行収入はどのように振り分けられるのでしょうか

一般的に映画館が興行収入の半分を取り分*とし、10-30%を配給会社、20-40%を製作委員会に分配します。あくまで一例ですが、出資合計が4億円のプロジェクトで興行収入が10億円だったと仮定すると、映画館の取り分が約5億、残り半分の5億から配給会社が手数料として約20%(1億)を取るとすると、制作費や広告宣伝費が4億円を上回っていたら、投資回収としては失敗になります。

*編集部注:内閣府経済社会総合研究所のワーキングペーパーより

実写の邦画は昨今、集客がなかなか厳しいのですが、ある意味で野心的な作品とも言える『大名倒産』が映画として存在できるということは、日本映画界もまだ大丈夫だと思っています。今まで先人たちが守り、繋いできた映画作品というものの拡がりと可能性をこれからも繋げていくことが、これまで以上に大事であると思っています。

──これから『大名倒産』をご覧になる方に向けて、ひとことお願いします

最近、改めて映画を見たり、作品を体験することが本当に楽しいと感じています。実は先日も『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(2023)を見てきましたが、とにかくエンタテインメント性が高くてストレートに面白かった。

『大名倒産』もキャラクターをかなり戯画化して描いていますが、それはとにかくお客さんに楽しんでいただきたいから。役者さんや声優さんはそこに人間として魂を込めて演じてくださっています。

時代劇がお好きな方はもちろんのこと、お子さんが見ても「時代劇って面白いね」と思ってもらえたり、「お金を稼ぐってどういうことなんだろう?」とわからないなりにも興味を持ってもらえるように作りました。ぜひ、そんな『大名倒産』の世界に没入して、楽しんでいただければ幸いです。

取材・文:堀木三紀/編集:M&A Online

<プロフィール> プロデューサー 石塚慶生(いしづか・よしたか)

2003年に松竹に入社。プロデューサーとして『子ぎつねヘレン』(2006)、『ゲゲゲの鬼太郎』(2007)、『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(2008)、『はじまりのみち』(2013)、『日々ロック』(2014)、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016)、『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)などを手掛ける。『わが母の記』(2012)はモントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリ、日本アカデミー賞の12部門で優秀賞を受賞。同作品で、プロデューサーとして藤本賞・奨励賞を受賞。

石塚プロデューサーとポスタービジュアル
石塚慶生プロデューサー ©M&A Online

<STORY>
越後・丹生山(にぶやま)藩の鮭売り・小四郎(神木隆之介)はある日突然、父・間垣作兵衛(小日向文世)から衝撃の事実を告げられる。なんと自分は〈松平〉小四郎ー徳川家康の血を引く大名の跡継ぎだと!庶民から一国の殿様へと華麗なる転身…と思ったのもつかの間、実は借金 100億円を抱えるワケありビンボー藩だった!?先代藩主・一狐斎(佐藤浩市)は藩を救う策として「大名倒産」すなわち藩の計画倒産を小四郎に命じるが、実は全ての責任を押し付け、小四郎を切腹させようとしていた…!

残された道は、100億円返済か切腹のみ!小四郎は幼馴染のさよ(杉咲花)や、兄の新次郎(松山ケンイチ)・喜三郎(桜田通)、家臣の平八郎(浅野忠信)らと共に節約プロジェクトを始めるが、江戸幕府に倒産を疑われ大ピンチ!はたして小四郎は100億円を完済し、自らの命と、藩を救うことが出来るのか!?

<作品データ>
監督 :前田哲
原作:浅田次郎「大名倒産」(文春文庫刊)
脚本 :丑尾健太郎、稲葉一広
音楽:大友良英
主題歌:GReeeeN「WONDERFUL」(ユニバーサル ミュージック)
出演:神木隆之介 杉咲花 松山ケンイチ
小日向文世 / 小手伸也 桜田通 / 宮﨑あおい
キムラ緑子 梶原善 / 勝村政信 石橋蓮司
髙田延彦 藤間爽子 カトウシンスケ 秋谷郁甫 ヒコロヒー
浅野忠信 / 佐藤浩市
企画・配給:松竹
(C)2023映画『大名倒産』製作委員会
2023年6月23日(金)全国公開

『大名倒産』ポスタービジュアル
(C)2023映画『大名倒産』製作委員会

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