去る2月3日、映画『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』が全国公開となりました。この映画は大ヒットアニメシリーズ「鬼滅の刃」の第2シーズン「遊郭編」第10・11話と、第3シーズン「刀鍛冶の里編」第1話をまとめた特別編成版です。
本編映像は4K高画質にアップグレードされ、音楽も劇場公開に合わせてリミックスされています。またワールドツアーとして95の国と地域で上映される予定です。
全ての始まりは2019年春のこと。週刊少年ジャンプで連載されていた吾峠呼世晴の「鬼滅の刃」を原作としたアニメシリーズ第1期に当たる「竈門炭治郎 立志編」(全26話)のテレビ放映がスタートしました。
その年の12月に中国の武漢で新型コロナが発生したのですが、ちょうど立志編が複数の動画配信サービスで展開されていたことで、緊急事態宣言により在宅時間を持て余していた視聴者にピタリとはまりました。SNSなどの口コミを通して、さらに認知度が高まる好循環が生まれました。そして翌年10月に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)が公開となりました。
当時の記事でも書きましたが、緊急事態宣言下で国内の映画館はハリウッドメジャーの超大作や話題作の公開が次々と延期され、劇場の上映枠に空きがある状態でした。
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その空き枠を全て無限列車編で埋めた結果、1日に40回以上の上映回数という劇場もあり、また観客もイベントや映画への飢餓感があったことから観客が無限列車編になだれ込み、需要と供給が上手くマッチして空前の大ヒットとなりました。
最終的に無限列車編は興行収入400億円を記録、これは歴代興行収入日本一の記録を19年ぶりに更新する快挙でした。それから4年を経て、ようやく『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』が公開となりました。
すでに無限列車編の劇場公開から2年以上が経っており、「鬼滅の刃」のブランド力については色々な意見がありました。第2期遊郭編のテレビ放映終了が2022年2月でしたので、それからも1年が経っています。
「鬼滅の刃」に前後する形で「呪術廻線」や「SPY×FAMILY」など大人気アニメシリーズが次々と公開されたこともあり、今さらとまでは言いませんが、新作の一部をこのタイミングで、しかもIMAXなどのラージフォーマットで大規模に公開する意味があるのだろうかという疑問がありました。
ただ、ここ最近はアニメ作品の特別編が上映される傾向にあります。テレビアニメとの相乗効果やソフトの販売促進を目的にした限定公開が多いですが、なかには本編並みに稼ぐ作品もあります。
例えば、好成績を上げているシリーズに『名探偵コナン』があります。2021年に長編新作『緋色の弾丸』の公開に合わせて特別編『緋色の不在証明』が上映されました。今年も4月公開の『黒鉄の魚影(サブマリン)』に合わせる形で『灰原哀物語 黒鉄のミステリートレイン』が公開されました。どちらもテレビシリーズのエピソードを抜粋して再編集したものですが、ファンを確実に集客してメイン長編の1割超の興行収入を上げています。
この『名探偵コナン』の例を今回の『鬼滅の刃』に当てはめると、単純計算で興収400億円の『無限列車編』の1割超、つまり40億円程度がひとつの目安となります。
この40億円という数字を達成するにはかなりのハードルですが、配給元の東宝はリアルな数字として計算している様子がうかがえます。その裏付けのひとつが、入場者に配布される特別冊子の発行部数です。
特別冊子は先着順の限定配布なのですが、なんと200万部を用意しているそうです。これが全部配布された場合、それだけで30億円近くの興行収入に結び付きます。
すでに、熱狂的なファンでは複数回鑑賞している人もいるようで、入場者特典の第2弾、第3弾があった場合、熱狂的なファンは確実に劇場へ向かうことになるでしょう。こうした仕掛けを実施すれば、興収40億円前後というのも十分にあり得る話です。
入場者特典 | ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ (kimetsu.com)
2月3日に公開された『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』は、興行通信社の集計によると、公開3日間で観客動員81.3万人、興行収入11.5億円を記録しました。これを興収44億円以上を記録した『シン・ウルトラマン』と比較すると、動員数が127%、興収が116%という数字になります。
1つの施設に複数のスクリーンがあるシネコン(シネマコンプレックス)時代に入ると、前後に公開される作品の人気が、公開する作品の上映回数(期間や規模)に大きく影響するようになりました。
つまり、作品自体のポテンシャルとは別の部分で興行規模事情が左右されることがあるのです。今後の公開作品を見てみると2月中旬までは大作の公開が少ない状態が続くので、今回もある程度の上映回数を確保し続けることが出来そうです。
こうして考えてみると、今後どこまで興収が上積みができるか、無限列車編にどこまで迫れるのか、要注目ですね。
文:村松健太郎(映画文筆屋)/編集:M&A Online編集部