M&Aビジネスの空白地帯で事業展開する「GOZEN(ゴゼン)」

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GOZEN代表の布田尚大さん

経済成長とソーシャルインパクトの両立を目指す「ソーシャルM&A」

M&Aビジネスの空白地帯で事業を展開する「GOZEN(ゴゼン)」。社会起業家として活動するdrapology(ドレイポロジー、東京都渋谷区)代表の布田尚大さんに、ソーシャルビジネス・スモールビジネスに特化したM&A仲介業を始めた理由と今後の展開について話を伺った。

出口戦略のない領域で勝負する

―起業した経緯をお教えください。

はじめはCOO(最高執行責任者)を専門に代行する会社として、2018年に株式会社drapologyを創業しました。

社会人として最初に入社したのは展示会の企画運営会社だったので、クリエイターとの接点はなかったのですが、東日本大震災の前後で「ソーシャルグッド」や「エシカル消費」、少し遅れて「SDGs」という言葉が流行り始めた時期でした。こうした社会変革の兆しに関心を持つようになり、「INHEELS(インヒールズ)」という(2019年にクローズしてしまいましたが)エシカルファッションのブランドにボランティアとして参加しました。その3年後にCOOとして正式に参画し、次第に他のブランドからも「経営があまり得意じゃないので手伝ってほしい」という要望が続いたので、法人という形態でやっていこうと思い、起業しました。ですから創業当時は、エムアンドエーの(M&A)の「エ」の字もありませんでした。

―M&Aとのかかわりは。

きっかけは「feast(フィースト)」というランジェリーブランドの経営を創業者から引き継いだことです。創業者が大学1年生の時に立ち上げたブランドでインフルエンサーとしても活躍している方でしたが、別事業に軸足を移したいという想いもあって、次の事業展開を模索していました。

―売り手(セルサイド)としてM&Aを経験されたのですね。

「feast」は弊社の1号案件として2022年3月に売却が完了しましたが、M&Aの交渉過程でソーシャルビジネスやクリエイターが手掛ける領域には出口戦略がないと気づいたのです。

―出口戦略とはM&AやIPOですか。

いま、ベンチャーキャピタル(VC)による投資が活発ですが、個人の原体験が起点となるソーシャルビジネスや独自性の強くクリエイターの感性が試される事業は市場規模が予測しにくいため、市場から評価されず、資金調達や売却が難しいのです。

僕自身、「feast」の出口戦略で色々なM&A仲介会社に相談しましたが、フィー(成果報酬や仲介手数料)が折り合わず難航しました。規模が大きい方にインセンティブが働くのは社会構造上、仕方がないことですが…。この経験から、ソーシャルビジネスやマイクロサイズのM&Aを少しでもサポートできたらと思い、「GOZEN」を立ち上げました。

ー「GOZEN」が提供する「ソーシャルM&A🄬」というサービスについて教えてください。

「ソーシャルM&A🄬」は我々が提唱する造語です。創業者の美意識や社会課題解決への熱意から生まれたビジネスを対象にM&Aをサポートし、さらに成約時の利益の一部を売り手のパーパス(目的)と近い非営利団体に寄付する「1ディール、1ドネーション」というコンセプトで社会活動をしています。

1号案件ではシングルマザーの心とカラダのケアをするNPO団体に、2号案件は立命館大学を通じてフードロスの団体に寄付しました。

マーケットありきではなく、社会に必要だから、好きだからという熱意でクリエイターが作ったビジネスの出口戦略を提供したいという想いから、経済成長とソーシャルインパクトの両立を目指す「ソーシャルM&A」というサービスが生まれました。

M&Aをディールメイクする

―ほかが手を付けない領域で勝機はありますか。

はい。成功事例は出ており、2023年5月にも2号案件として「OYAOYA(オヤオヤ)」という乾燥京野菜のベンチャーを貝印の子会社に売却しました。

我々の強みは、他のM&A仲介会社が介入しづらい場面でも、ブランド構築やマーケティング支援といった「GOZEN」ならではの切り口でコーディネーターから関与し、M&Aの案件を創出することが出来ます。

クリエイタービジネスについて誤解されている方が多いと思いますが、売却したら、そのブランド価値が存在しなくなるだろうと。しかし「GOZEN」は他の人が運営しても経営上問題ないブランドに育てていきます。

―考えてみると、創業者が存命という有名ブランドの方が少ないですよね。

「feast」も途中から創業者が関与せずとも事業は軌道に乗っていましたので、ここで抜けても売り上げが急速に下がることはないだろうという見立てはありました。

ただ、交渉時に買い手側がキーパーソンが抜けるリスクを憂慮するのは当然だと思います。その誤解を解き、創業者が抜けても問題ないと証明できれば、クリエイタービジネスであっても、M&Aでのイグジットは可能です。

クリエイターが世界にはばたく支援を

ー「GOZEN」が手掛けるM&Aの可能性とは。

例えば、2号案件の「OAYAOYA」創業者は海外志向が強かったのですが、コロナ禍で思うように事業が伸ばせなかったのです。その時にM&Aの話が進み、創業者の想いを聞いた買い手側から貝印の子会社の取締役CEOとして残って(海外進出という)夢を実現してみませんかという提案をいただきました。

起業が身近になりつつも、収入は少ないがやりがいや好きを追求できる環境か、大企業に入り安定する道を選ぶか、の二分法的思考で考える人はまだ多いと思います。しかし、M&Aなら20代でイグジットをしてキャピタルゲインを得つつ、売却先の大企業の資本が入る子会社でCEOとなれば、まだ先輩のかばん持ちをしている年齢で経営のトップ層という非線形なキャリア成長が描けます。「GOZEN」ではこのようなクリエイターのライフキャリアを構築する手助けをしていきたいです。

ー今後の展開は。

地方案件と伝統工芸に力を入れたい。今は地方でも独立系のVCが増えていて、投資が盛んになってきているのですが、海外企業も含めて買い手の意思決定者は東京に集中しています。都市部の買い手の紹介をするのはもちろんですが、地元のキャッシュリッチな企業に買収してもらう活動もサポートしたいと思っています。

クロスボーダー案件として手掛けてみたいのが、伝統工芸の領域。例えば海外の有名アーティストが有田焼を買うとブランドの価値が上がる、というような風潮をM&Aでもやってみたいと考えています。

事業承継が日本の社会課題であることは間違いないですが、既に手掛けているM&A仲介会社がたくさんいますし、その領域を「GOZEN」がやっても存在価値がないかなと。これからも規模は小さくとも若い世代が作った伸び盛りの企業をうまく継承して、クリエイターが世界にはばたく支援をしたいと思っています。

僕は「感性と論理」とか「アートとビジネス」など(右脳と左脳の)中間にいるのが好きなんです。多様化する社会で、単に「儲かるか」だけでなく、BS(貸借対照表)に表れないようなソフトコンテンツに価値を見出すことに面白いと感じる、我々のような感性を持つM&Aバンカーを増やしていきたいという思いもあります。

取材・文:M&A Online

布田 尚大(ふだ・なおひろ)さん

布田 尚大さん

1983年生まれ。東京都豊島区出身、一橋大学社会学部・同大学院 社会学研究科修了。社会学修士。
株式会社drapology CEO / GOZEN代表、株式会社feast取締役社長(いずれも現職)

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