一神教と疫病とコーポレートファイナンスⅦ|間違いだらけのコーポレートガバナンス(18)

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宮廷とユダヤ教徒を結び付けた「医学」

では欧州世界の王室は、どうやってユダヤ教徒の共同体とつながり、関係を深めていったのか。初期のきっかけとして最も重要だったのはおそらく金融よりも医学だ。ユダヤ教徒の原点ともいえる専門技能と能力が、ここでも重要な役割を担ったと考えられる。

以前にも述べたが、ユダヤ教社会のプロフェッショナルの頂点は宗教指導者でもあるラビだ。そして、それに次ぐ重要な専門職が医者だった。外科的技術が進んでいなかった中世の医学は、現在の概念で言えば「薬学」に近いものだったと考えられる。そして薬の原料といえば植物だ。

つまり、古代から中世における医師とは言ってみれば薬草師に近いだろう。人体に役に立つ様々な植物、そしてそれを用いた薬の調合法(レシピ)に関する知識。これはディアスポラの民であり、貿易の民だったユダヤ教徒が、集積された情報と知識を豊富に持っていた領域だったと筆者は考えている。

医者として信頼され、国政を任された

上記の事例として、歴史上有名なユダヤ人医師を紹介しよう。「ハスダイ・イプン・シャプルート」というユダヤ人医師がいた。彼はアフリカ原産のテリアカという解熱効果のある薬草を再発見し処方することで、宮廷の信頼を勝ち取る。

これをきっかけに、彼は医師の枠を超えて重用され、イスラム帝国ウマイヤ朝の重要な宮廷ユダヤ人として外交・財政など広範囲にわたって重要な役割を演じたのだ。

医食同源という言葉があるが、後世、欧米諸国が血眼になって獲得を目指した香辛料や砂糖(サトウキビ)も、「人体に役に立つ植物」のひとつとして考えられていたに違いない。

抗生物質と外科的療法が中心の現代医学の常識からは考えにくいが、「医学(薬草学)」と「貿易」の間には、恐らく大きなシナジー効果があったのだ。

レコンキスタに翻弄されたユダヤ教徒

11世紀末までのイベリア半島ではイスラム勢力が優勢で、イスラムによる平和の下にイベリア半島のユダヤ教社会は黄金期ともいえる発展を果たす。イプンシャプルートのような歴史に名を遺す宮廷ユダヤ人も多く誕生して貿易圏は拡大、人口も増大した。

しかし、やがて十字軍の遠征の開始と前後してイベリア半島も宗教勢力の激しい対立の舞台となる。そして、ユダヤ教社会の黄金時代は儚くも消え去り、「ユダヤ教徒保護」の方針を変えたイスラム教勢力による迫害が始まる。

さらに、レコンキスタ運動が激化してキリスト教勢力が優勢になると、ユダヤ教徒はイスラム教勢力からキリスト教勢力が奪い取った戦利品として「宮廷の所有物」となり、その知恵と能力、財産をキリスト教勢力に搾取されていくことになる。

(この稿続く)

文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)

西澤 龍 (にしざわ・りゅう)

IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー

投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員

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