2023年の円安関連倒産が前年比2.1倍の52件に急増したことが1月9日に公開された東京商工リサーチの調査レポートで分かった。かつて日本経済にとって「円安は善、円高は悪」と言われたが、近年はその状況が大きく変わっている。
同調査によると、円安関連倒産は昨年初めから途切れることなく発生し、円安の影響がピークとなった5月に9件と同年最多に達した。昨年末にかけては円安が落ち着いたこともあり、12月は2件に留まった。業種別では卸売業の24件が最も多く、次いで製造業の11件、小売業の8件、サービス業などの4件、農・林・漁・鉱業の3件、建設業の2件だった。
昨年の為替相場は1月16日に一時、1ドル=127.22円まで円高が進んだ後は円安が続き、11月13日には同151円80銭まで下落。12月後半には141~145円台に戻したが、2023年の年初と比べると依然として円安の状態だ。日本銀行の利上げによる金融引き締めの先行きが見通せないことなどから、当面はこの水準の円安が進むと見られる。
東京商工リサーチは同レポートで「円安は原材料や資材に加え、エネルギーなど幅広い局面でコストアップを招いている。コロナ禍からの業績回復が遅れ、価格転嫁が難しい中小・零細企業ほど、業績と資金繰りに打撃を受けやすい。さらに、過剰債務を抱えるなかで仕入コストの上昇は資金需要を活発にするため、資金を円滑に調達できない場合、資金繰りが追い付かず倒産を押し上げる可能性が高い」と警鐘を鳴らす。
ここまで円安が悪影響を及ぼしている背景には、日本経済の構造変化がある。日本貿易会によると、2021年の貿易総額は国内製造業が世界を席巻し始めた1980年の約2.7倍に当たる約168兆円となった。2010年までは輸出額が輸入額を上回る貿易黒字の状態が続いたが、2011年に31年ぶりの貿易赤字となり、2015年まで続いた。その後は黒字と赤字を繰り返している。
貿易黒字の状態であれば輸出品の価格競争力を引き下げる円高は不利だが、貿易赤字となればエネルギーや原材料といった輸入品の価格を押し上げる円安は日本経済にマイナスだ。円安にせよ円高にせよ為替相場の乱高下はリスクだが、輸出大国時代の「円安は善、円高は悪」が現在では通用しないことだけは明らかなようだ。
文:M&A Online
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