その「錬金術」が破綻した理由は、ステーブルコインならではの「安定性」だった。法定通貨担保型ステーブルコインUSDCの相場をドルとひもづけるためには、USDC運営者が手元にそれなりのドルを保有する必要がある。これがステーブルコインの「安定性」の担保だ。
同様にIRON運営者であるIron Financeも、IRONの相場をUSDCとひもづけるためにUSDCを保有しなくてはならない。もしもIron Financeの手元にあるUSDCが尽きれば、IRONとの交換はできなくなる。IRONの価格が1ドルを上回っていれば問題はない。保有者は1ドルより高値がつく仮想通貨市場で売却するので、Iron Financeの手元にあるUSDCが減ることはないからだ。
しかし、価格が1ドルを下回ると、保有者はIRON運営者に対してUSDCへの償還を求める。するとIron Financeの手元USDCは減少し、それが尽きたところで償還はストップするのだ。その「からくり」を知る投資家であれば、TITANの価格が下降に転じた時点でただちに売り払い、IRONをUSDCと交換するだろう。
事実、IRONはTITANの暴落を受けて、6月17日に最安値の0.65ドルに下落。本来ならば暴落しても「1IRONにつき75セントのUSDCと25セントのTITAN」に償還できるはずだったが、Iron Financeは17日に「TITANの価格が0にまで下落したため、償還は不可能」と告知した。
歴史に残る大暴落を引き起こしたIron Financeだが、ネットで「私たちが経験したことは、プロトコルに起こりうる最悪の事態であり、現代のハイテクな仮想通貨における歴史的な取り付け騒動だ」と他人事のようなコメントを出し、投資家の怒りを買っている。
もっともIron Financeは新興の電子通貨で、事実上無価値となったTITANもピーク時の時価総額は20億ドル(約2200億円)相当と、ビットコインなどのメジャーな電子通貨に比べれば決して大きくない。国内で取り扱っている取引所もないことから、日本への影響は限定的だろう。
TITANの取引は現在も細々と続いている。もしも相場が上向いて本来価値の0.25ドルに戻るようなことがあれば、少額の投資で莫大な利益を得られるからだ。もちろん消滅する可能性も大きく、経営破綻企業の株式や宝くじ感覚で投資する特殊案件である。
文:M&A Online編集部
日本政府は世界に先駆けて仮想通貨交換業を登録制とし、市場の安定化に取り組んできた。日本が仮想通貨で世界をリードする日は実現するのか。2019年は将来の日本のポジションを占う年となりそうだ。
仮想通貨交換業に新規参入の意向を持つ企業が160社超に達していることが、金融庁の調べで分かった。4月27日に金融庁が公表した資料では100社程度だったため、この5カ月ほどで1.6倍に増えたことになる。