会社分割を活用したM&Aの新たな可能性(平成29年度税制改正案)
平成29年度税制改正では、M&Aの実行を容易にするための種々の改正が予定されています。この改正により会社分割を行う際、含み益に対して課税される問題が解消されるのではないかと考えられます。
事業譲渡は、会社分割と異なり、労働組合等との関係での手続が定められた労働契約承継法(※)は適用されないものの、労働組合等との十分な協議等の重要性から、事業譲渡等指針においては、以下の各点について留意すべきとされています。
※ 正式名称は「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」です。
ア 譲渡会社が、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、ない場合においては労働者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によって、以下の事項等について、労働者の理解と協力を得るよう努めることが適当であること
・事業譲渡を行う背景及び理由、譲渡会社及び譲受会社の債務の履行の見込みに関する事項
・承継予定労働者の範囲及び労働協約の承継に関する事項
※ 上記「その他これに準ずる方法」については、事業譲渡等指針において、「名称のいかんを問わず、労働者の理解と協力を得るために、労使対等の立場に立ち誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議することが含まれる」とされています
イ 労働組合法上の団体交渉の対象事項(労働組合法第6条)について、譲渡会社は、上記アの協議等を行っていることを理由に、労働組合からの適法な団体交渉の申入れを拒否できず、誠意をもって交渉に当たらなければならないものとされていること
ウ 上記アの協議等は、遅くとも、前記2(2)アの承継予定労働者との協議の開始までに開始され、その後も必要に応じて適宜行われることが適当であること
事業譲渡が行われるにあたって、譲渡会社の従業員にとっての雇用契約上の使用者は当然譲渡会社ですが、団体交渉に応じなければならない「使用者」(労働組合法第7条)は、判例等を踏まえますと、必ずしも、譲渡会社に限定されるとはいえません。
この点につき、事業譲渡等指針は、それら判例等における判示内容等に具体的に言及し、以下のように留意すべきとしています。
ア 団体交渉に応ずべき「使用者」の判断に当たっては、最高裁判所の判例(※)において、雇用主以外の事業主であっても、「その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて」「使用者」に当たると解されていること等、これまでの裁判例等の蓄積があることに留意すべきである。
※ 事業譲渡等指針には具体的な記載がないものの、朝日放送事件(最三小判平成7・2・28民集49巻2号559頁)を挙げることができます。
イ また、譲受会社が、団体交渉の申入れの時点から「近接した時期」に譲渡会社の労働組合の「組合員らを引き続き雇用する可能性が現実的かつ具体的に存する」場合であれば、事業譲渡前であっても労働組合法上の「使用者」に該当するとされた命令(※)があることにも留意すべきである。
※ 事業譲渡等指針には具体的な記載がないものの、盛岡観山荘病院不当労働行為再審査事件(中労委平成20・2・20命令集140集813頁)を挙げることができます。
以上、概観しましたとおり、事業譲渡等指針は、その内容の多くが、従前の裁判例等の蓄積を反映したものであり、これまでの実務運用と大きく異なるものとはいえません。
しかし、同指針の定めは抽象的なものも多く、対応にあたっては、個別の案件ごとに、従前の裁判例の趣旨等も踏まえた、慎重な判断が必要になります。
事業譲渡を含め、M&Aに伴う労務上の対応つき、お悩み等ございましたら、是非お気軽にご相談ください。
以上
文:弁護士 岡野 裕一郎
出典:フォーサイト総合法律事務所HP 「マンスリーコラム新法・新判例」
原文はこちらからどうぞ
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