会社分割を活用したM&Aの新たな可能性(平成29年度税制改正案)
平成29年度税制改正では、M&Aの実行を容易にするための種々の改正が予定されています。この改正により会社分割を行う際、含み益に対して課税される問題が解消されるのではないかと考えられます。
前記1のとおり、事業譲渡に伴う労働契約の承継については、これまで、法律だけでなく、厚生労働省策定の指針等すら存在しない状況であったこともあり、事業譲渡が、解雇に関する厳格な規制を回避する目的で利用されるケースがありました。
もっとも、そのようなケースにおいては、これまで、個別事案ごとに、裁判例による労働者側の救済が図られてきました。
こうした裁判例の蓄積等も踏まえ、事業譲渡等指針は、事業譲渡に伴う労働者の解雇において留意すべき点を、以下のように定めています。
ア 承継予定の事業に従事していた労働者が、労働契約の承継に同意しない場合、譲渡会社としては、当該労働者の雇用継続の必要性を失うことから、承継に同意しないことを理由として、解雇に踏み切ることがあり得ます。また、より端的に、当該労働者がそれまで従事していた事業が譲渡されること自体を理由に、解雇を実施することもあり得ます
しかし、承継に同意しないことのみを理由とした解雇や事業譲渡がなされることのみを理由とした解雇が容易に認められてしまうのであれば、承継について労働者の同意を求めた趣旨が骨抜きとなる等、問題が大きいところです。
そこで、事業譲渡等指針は、このような、労働契約の承継に同意しないことや事業譲渡がなされることのみを理由とした解雇等、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められない解雇については、解雇権を濫用したものとして、無効となる(労働契約法第16条)と明記しています。
なお、上記以外の場合でも、事業譲渡を理由とする解雇は、通常、整理解雇として実施されることになるため、事業譲渡等指針は、その有効性が、整理解雇に関する判例法理に基づき判断されることに留意すべきとしています。
すなわち、いわゆる4要素、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性(十分な説明・協議がなされたかどうか等)に着目し、総合的に解雇の有効性が判断されることになると考えられます。
イ 上記アを踏まえ、事業譲渡等指針は、譲渡会社において、(直ちに解雇に踏み切るのではなく)、他の事業部門に配置転換を行う等、当該労働者との雇用関係を維持するための相応の措置を講ずる必要があるとしています。
事業譲渡等指針においては、その他、承継から排除された労働者の救済等について、裁判例等を踏まえた留意点を、以下のように定めています。
ア 譲渡対象事業に従事していた従業員を一旦全員解雇したうえ譲受会社の専権でそれらの者の再雇用を行うとの合意を前提に、殊更労働組合員のみを不採用としたという事案で、裁判例においては、当該合意がそもそも当該労働組合及び組合員を嫌悪して排除することを主たる目的としていたものと推認し、組合活動を嫌悪した解雇と等しいものと評価しており、よって、当該不採用は不当労働行為(不利益取扱い)に該当すると判断しています(青山会事件・東京高判平成14・2・27労判824号17頁)。
こうした裁判例等を踏まえ、事業譲渡等指針は、承継予定労働者の選定に際し、不当労働行為その他の法律に違反する取扱いを行ってはならないとしています。
イ また、事業譲渡等指針は、裁判例(※)が以下の①~③のような構成等で、労働者の救済を図っていることに留意すべきとしています。
※ 事業譲渡等指針には具体的な記載がないものの、以下では、各構成の具体例として挙げることができる一部の裁判例につき、その概略をお示しいたします。
① 黙示の合意の認定
解散した会社の事業を、解散前とほとんど変わりない状態で、同社の代表取締役個人が継続していたという事案で、裁判例においては、解散した会社から代表取締役個人への事業の包括的な譲渡があったと評価したうえ、両者間に労働契約の承継についての黙示の合意(及びこれについての労働者の黙示承諾)があったとし、労働契約の承継を認めています(Aラーメン事件・仙台高判平成20・7・25労判968号29頁)。
② 法人格否認の法理(※)
多額の未払賃金支払債務を抱えた会社が、本店所在地や役員構成等が共通する別会社に対しその事業の大半を譲渡する一方、その未払賃金支払債務等は譲渡せず倒産したという事案で、裁判例においては、未払賃金支払債務等を免れる目的でなされた会社制度の濫用と評価し、法人格否認の法理により、信義則上、譲受会社は、譲渡会社と別異の法人(格)であることを主張できず、したがって、労働者に対し、譲渡会社と並んで未払賃金支払債務等を負わなければならないと判断しています(日本言語研究所ほか事件・東京地判平成21・12・10労判1000号35頁)。
※ 「法人格否認の法理」とは、概略、本来、会社は法人であり会社自身が権利・義務の主体となるため、原則として他の者が会社の義務を負担することにはならないところ、この原則を貫くことで却って不都合が生じてしまう場合があるため、例外的に、そのような場合に、他の者・法人を当該会社と同一視することで、この者・法人にも当該会社と同様の責任を負わせるというものです。
③ 公序良俗違反(民法第90条)
事業譲渡にあたり、譲渡会社・譲受会社間で、「譲受会社に労働者との労働契約を移行させるものの、移行にあたり労働条件が相当程度下回る水準に改訂されることに異議のある従業員の移行については個別に排除する」と合意したうえ、その手段として、「譲渡会社において一旦従業員全員に退職届を提出させ、譲受会社において再雇用するという方法をとることとし、退職届を譲渡会社に提出しない者については、譲渡会社の解散により解雇する」という合意がなされたという事案で、裁判例においては、上記合意が公序良俗違反に該当するとして無効と判断しています(民法第90条)。
なお、上記合意に基づき実施された解雇については、解雇権を濫用したものとして無効と判断しています(勝英自動車学校(大船自動車興業)事件・東京高判平成17・5・31労判898号16頁)。
平成29年度税制改正では、M&Aの実行を容易にするための種々の改正が予定されています。この改正により会社分割を行う際、含み益に対して課税される問題が解消されるのではないかと考えられます。
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