優先交渉権が付与されてから決裂することも

もちろん、優先交渉権が付与されても、その交渉の過程でM&Aの話が決裂することもある。例えば、韓国2位のタイヤメーカーで経営再建中のクホムは2017年1月に中国の同業である青島双星に優先交渉権を付与した。しかし、青島双星はクホムの経営悪化を理由に、当初9550億ウォン(1ウォン=0.1円とすると955億円)であった買収価額を2割近く引き下げることを提案し、昨秋には交渉が決裂してしまった。

ただ、このケースに関しては、2018年3月に入って、クホムの株式を保有する債権団を率いる産業銀行が、青島双星との交渉を再開したことを公表している。クホム側が有望な買い手を見つけられなかった可能性が考えられ、青島双星にとっては有利な条件で交渉を進められるものと見られる。

優先交渉権に法的な拘束力はある?

それでは、契約を締結する前の段階で合意される優先交渉権にはそもそも法的な拘束力があるのだろうか。その疑問に答えるための参考となる好例が存在する。

2018年4月1日から「三菱UFJ銀行」に行名を変更する三菱東京UFJ銀行は、2005年にUFJグループと三菱東京FGが経営統合することにより生まれた。この歴史に残る大型再編の過程では様々な再編劇が繰り広げられたが、そのうちの一つが優先交渉権を巡る争いである。

争いの発端は2004 年7月13日、UFJグループが交渉中であった住友信託銀行に基本合意の撤回を通知し、わずか3日後の7月16日に三菱東京FGと経営統合に向けた協議を開始した旨を公表したことにある。

UFJグループと住友信託との基本合意書には独占交渉権付与条項があったため、これを根拠として住友信託がUFJグループと三菱東京FGとの間における信託部門の経営統合交渉を差し止める仮処分を東京地裁に申請したのだ。

これに対して東京地裁は住友信託の主張を認め、UFJグループに統合交渉の差し止めを命じた。しかし、UFJグループはこれに異議を述べ、最終判断は東京高裁を経て最高裁にまで持ち込まれることとなった。