千葉県には2つの地銀がある。1つは単体で3107 億4200万円(2024年3月期)と、地銀最大級の経常収益を誇る千葉銀行<8331>だ。もう1つは決して規模は大きいとは言えないが、バブル景気後の苦境を乗り越えて堅実な地元重視の経営を貫き続ける千葉興業銀行<8337>である。
かつて千葉銀行を取り上げた後、本来は千葉興業銀行を取り上げるべきだが、同行は1952年の設立以後、M&Aを行った形跡はない(ただし、千葉興銀の筆頭株主であるみずほ銀行が2023年に千葉興銀の株式の一部を売却し、千葉興銀はみずほ銀行の持分法適用会社から外れることとなった)。そこで、千葉県では第二地銀の京葉銀行<8544>を見ていく。
今年1月に発表された「千葉県内企業のメインバンク調査」(帝国データバンク2023年調査)でも、京葉銀行は3位の千葉興業銀行を抑え、14.55%で第2位のシェアを誇る金融機関である。
その京葉銀行は1943年3月、千葉合同無尽を設立したことに始まる。千葉合同無尽はその名のとおり大昭無尽、千葉共栄無尽、千葉無尽の3無尽が合併して新立した無尽会社だ。
千葉合同無尽は1951年10月に商号を千葉相互銀行に変更した。そして1989年1月に、現在は連結子会社である京葉銀カードを設立し、2月には普通銀行へ転換、京葉銀行に商号変更した。
普通銀行への転換の際、コミュニケーションネームとして使ったのがα(アルファ)バンクという名称である。コミュニケーションネームにはいくつかの概念があるが、いわば“愛称”のようなもの。金融機関でも埼玉県の飯能信用金庫(略称:はんしん)の「Linking Bank」など、正式な金融機関名と略称の間で、顧客との関係性を補完する名称をコミュニケーションネームとして用いることが増えてきた。
京葉銀行のコミュニケーションネーム「αバンク」では「α」の交点を人と人との交わりと考え、そこを起点に伸びてゆく思いを込め、ロゴマークに採用している。
京葉銀行の特徴的な点は、頭取が第二地方銀行協会の会長に幾度か就任していること。一概に言うことはできないかもしれないが、業績的には確かな地歩を固めている第二地銀と評価されているということができる。歴代の第二地方銀行協会会長職を務める頭取の銀行を見ると、京葉銀行をはじめ名古屋銀行、北洋銀行、栃木銀行が多い。
ちなみに規模的な業績数字を見ると、第二地方銀行協会の中で2番手である。2023年3月期だが、預金量は5兆3029億円で北洋銀行に次いで2位、有価証券残高も1兆1165億円で北洋銀行に次いで2位、貸出金残高も4兆0878億円で北洋銀行に次いで2位である。ただし、経営効率面の巧拙を感じさせる預貸率では、第2地銀37行のうち23位と順位が下がる。
なお地域に対する積極性は、ATMによる外貨預金の取扱いを千葉県内で初めて開始し、またATMで個人向け国債の販売を全国で初めて開始している。
また、日本格付研究所の格付一覧を見ると、京葉銀行は2014年から「A +」を続け、いわば安定的な経営を進めている。その理由を見ると、
・ローコストオペレーションなどに支えられた良好な収益力、健全な貸出資産の質、充実した自己資本などを反映している
・コア業務純益ベースでみた利益水準やROAはAレンジの地域銀行の中で良好
・金融再生法開示債権比率は 1%台前半と低く、高い保全率が保たれている
・連結コア資本比率は10%台前半とAレンジの地域銀行の中では高水準を維持している
などが挙がっている。
京葉銀行のM&Aはいわば他の第二地銀と同様に、無尽組織に始まり、相互銀行法の整備とともに相互銀行に、同法の廃止とともに普通銀行に、という一般的な第二地銀が辿った道のりと同様である。
京葉銀行になった1989年2月から今日に至るまで、他の金融機関とM&Aを行ったことはない。グループ内として京葉銀保証サービス、京葉銀キャピタル&コンサルティングを設立し、いずれも現在は連結子会社とするグループ組織の再編にとどまっている。
文・菱田秀則(ライター)
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1989年、山陽相互銀行の普通銀行転換時に改称したトマト銀行。当時、その行名は大きな話題を呼んだが、改称から30余年、地銀再編の波をどのように乗り越えるのか。