3. コーポレートガバナンス上の問題

 コーポレートガバナンスの観点からは、コーポレートガバナンス・コードにも書かれているように、企業は中長期的な企業価値の向上を目指すことが求められます。そういう点では、短期視点の株主より中長期視点の株主が増えることは望ましいことです。トヨタの種類株式は最低5年間保有することになりますので、中長期の株主を増やす点では優れていると言えます。

 これに対して「スチュワードシップ責任を負った機関投資家株主の多くが、トヨタの種類株式発行に賛成したことは理解できない」といった意見がありました。これはなぜでしょうか。

 元本保証と毎年0.5%ずつ配当率が増加することを約束し、それと引き換えに5年間は譲渡できないようにするということは、「物言わぬ株主」を多くつくることになるからだと思います。

 言い方を変えると、会社の経営に不満がある株主は、株式売却という究極の選択がありますが、それを選択できない代わりに固定的な配当で満足する株主を増やすことになるということです。

 株主の権利を制限するような種類株式を発行するという議案には、普通株式を保有する株主は反対すべきだというのが、上記の反対意見の趣旨です。国民の年金を運用するGPIF、ゆうちょ銀、生保などは、国民、個人、企業から預かった資金を運用する機関投資家株主です。その立場からみるとこのように「物言わぬ株主」をつくる種類株式は望ましくない、ということです。

 結果として、大多数の機関投資家株主はトヨタの種類株式に賛成したのですから、まだまだスチュワードシップ・コードを理解した「物言う株主」としての行動が身についていないということかもしれません。ただ、第1回の種類株式発行は発行済株式数の約1.4%で、発行上限はその4.5%程度ですので、これくらいなら問題ないということで賛成したということも考えられます。

 トヨタは、このような「奇策」を使わなくても、中長期安定株主を増やすことはできるはずだ、という意見もありました。中長期株主の確保のためには、株主優待制度がよく使われます。少なくとも、この社債的な種類株式の発行は、個人株主から歓迎されたとしても、コーポレートガバナンスの観点からは、特に譲渡制限がある点が望ましくないと思います。読者の皆さんはどのように考えますか。

文:株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.033 2016.7.20)より転載

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