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大手企業7社が語る、スタートアップとの協業ニーズ 第42回S venture Lab.リバースピッチ特集

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「第42回Conference of S venture Lab.」

ストライクは6月26日、共創型ショールーム「THE MUSEUM」(東京・港区)でスタートアップと事業会社の連携促進イベント「第42回 S venture Lab.」を開催した。今回は「リバースピッチ特集」として、スタートアップとの協業を目指す大手企業7社が登壇。各社の具体的な協業ニーズや今後の展望を語った。会場・オンライン合わせて300名以上が参加し、会場は満席となる盛況ぶりだった。

パラマウントベッド、医療・介護の枠を超えた新事業展開へ

パラマウントベッド バリュークリエイトグループ アライアンスチームの北田真也氏
パラマウントベッド バリュークリエイトグループ アライアンスチームの北田真也氏

パラマウントベッド バリュークリエイトグループ アライアンスチームの北田真也氏は、同社が「ベッドだけの会社ではない」ことを強調した。「近年では院内サービスや見守りセンサーの提供の他、睡眠をテーマにコンシューマー向け事業も展開させていただいている」(北田氏)と、事業領域の拡大を説明。

同社は2022年10月にCVCファンドを設立し、50億円規模で運営している。現在15社に投資実行済みで、医療・介護・健康の3事業領域でスタートアップとの協業を進めている。

特に注目すべきは、スマートベッドシステムを活用した病院のデジタル化だ。「ベッドサイドで情報の確認・入力をすることで、医療従事者の業務負担を軽減し、もっと患者様に寄り添ったケアをできる環境をつくる」(北田氏)と、現場の課題解決に直結するソリューションを展開している。

栗田工業、水処理技術を軸にカーボンニュートラル実現へ

栗田工業 イノベーション本部 企画部 オープンイノベーション推進課長の日高勝彦氏
栗田工業 イノベーション本部 企画部 オープンイノベーション推進課長の日高勝彦氏

栗田工業 イノベーション本部 企画部 オープンイノベーション推進課長の日高勝彦氏は、同社が水処理のエンジニアリング会社として「様々な技術を取り入れて、それを組み合わせてソリューションを見出す」点で、オープンイノベーションとの親和性が高いことを説明した。

同社の重点領域は「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「ウォーターポジティブ」の3つ。「水処理や廃棄物処理から有価物やエネルギー創出、あるいはCO2の固定化を狙う」(日高氏)と、環境問題の解決と経済性の両立に向けた取り組みを紹介。

2020年には米シリコンバレーのAI企業Fracta社を買収し、AIを活用した水処理の最適化を推進。東京・昭島にはイノベーションハブを開設し、外部との連携を強化している。「クライメートテックの実装は、自社とスタートアップ1社だけでは難しく、バリューチェーン全体で様々な企業と協力をして、オープンイノベーションを進めていきたい」(日高氏)と意欲を示した。

東急不動産HD、渋谷を起点に街づくりのDXを推進

東急不動産ホールディングス グループCX・イノベーション推進部 イノベーション戦略グループ係長の伊藤慎二氏
東急不動産ホールディングス グループCX・イノベーション推進部 イノベーション戦略グループ係長の伊藤慎二氏

東急不動産ホールディングス グループCX・イノベーション推進部 イノベーション戦略グループ係長の伊藤慎二氏は、同社が「顧客のタッチポイントの多さを活かして社内外でオープンイノベーションを推進していく体制」を目指していることを説明した。

同社は2つのCVCファンドを運営し、これまでに37社に出資。特に注力する3つの領域として「GXビジネスモデル」「広域渋谷圏」「グローカルビジネス」を掲げる。「渋谷だけではなく、北海道や九州等で渋谷と同様にエリアマネジメントやスタートアップエコシステムを構築していきたい」(伊藤氏)と、全国展開の構想を語った。

協業事例として、NFTを活用した北海道ニセコのスキー場の特典NFT化や、渋谷の街に100か所以上のスポットを設置し「傘のいらない街 渋谷」プロジェクトを紹介。「オープンイノベーションを通じて各社の課題を解決していきたい部分が大きいため、我々は事業連携に力を入れている」(伊藤氏)と強調した。

東京メトロ、鉄道事業の枠を超えた新サービス創出へ

東京地下鉄(東京メトロ) 企業価値創造部次長 CVC担当課長の渡辺太朗氏
東京地下鉄(東京メトロ) 企業価値創造部次長 CVC担当課長の渡辺太朗氏

東京地下鉄(東京メトロ) 企業価値創造部次長 CVC担当課長の渡辺太朗氏は、同社が2016年からオープンイノベーションに取り組んできたことを説明。2024年にCVC活動「Tokyometro Ventures」を立ち上げ、本格的な投資活動を開始した。

同社の強みとして「交通広告を利用して協業の売上向上を推進できること」「乗降客数652万人/日の顧客接点があること」を挙げた。現在4社に出資しており、特にインバウンド向けサービスの強化に注力している。

スタートアップ連携の具体的な成果として、訪日外国人向け乗車券のデジタル販売化を紹介。「年間60万枚増の販売効果が出ています」(渡辺氏)と、着実な成果を強調した。

NEC、300億円規模の投資実績を活かしたエコシステム構築

日本電気(NEC) グローバルビジネスイノベーションユニット ビジネスイノベーション統括部 CVCチーム シニアファンドマネージャーの今井瑛里子氏
日本電気(NEC) グローバルビジネスイノベーションユニット ビジネスイノベーション統括部 CVCチーム シニアファンドマネージャーの今井瑛里子氏

日本電気(NEC) グローバルビジネスイノベーションユニット ビジネスイノベーション統括部 CVCチーム シニアファンドマネージャーの今井瑛里子氏は、同社が「海底から宇宙まで、様々な業種のお客様にデジタルを活用して新しい価値を提供しています」と幅広い事業領域を説明。

2021年に設立した「NEC Orchestrating Future Fund」は200億円規模のマルチLP大型ファンドで、注力領域は5G/6G(NW)、DX、デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス、スマートシティ、ヘルスケア・ライフサイエンス、カーボンニュートラル。これまでに国内外の10社に投資。「出資先に加えて、ファンドを通して出会ったスタートアップ連携を進めている。NECがスタートアップの顧客となるクライアントゼロ、顧客へ製品連携や共創など。」(今井氏)と豊富な協業パターンや実績をアピールした。

現在探索を強化している領域として「ヘルスケア」と「防災」を挙げ、特に防災分野では「有事だけでなく平時に向けて協力していくとか、住民、外来者、外国の障害を持っている方とのコミュニケーション、避難支援というところも、社会課題解決のために やっていきたい」(今井氏)と意欲を示した。

トヨタ紡織、モビリティ空間の価値創造に向けて17社に出資

トヨタ紡織 経営企画部 戦略推進室 CVCグループ グループ長の森山朋和氏
トヨタ紡織 経営企画部 戦略推進室 CVCグループ グループ長の森山朋和氏

トヨタ紡織 経営企画部 戦略推進室 CVCグループ グループ長の森山朋和氏は、同社が「持続的に事業を成長させていくためには、従来のビジネスモデルだけではなかなか難しくて、イノベーション、新規事業、そういったものを加えた」取り組みが必要だと説明。

同社のCVCは「車室空間」「ESG」「ものづくり」の3分野を重点領域としながら、多角的な分野に出資(計17社)。協業事例として、力加減をコントロールできる技術を持つモーションリブ社との「リラックスシート」開発や、VR空間でコンテンツを生成するABAL社と共同開発したコンテンツ体験支援システム「MOOX-RIDE」などを紹介した。

「私たちは、CVC活動における戦略的投資を通じて、オープンイノベーション推進、異業種協業、社内の意識改革、こういったところを確実に進めていきながら、新たな柱となる事業の創出につながれば」(森山氏)と、長期的な視点での事業創出を目指す姿勢を示した。

丸井グループ、若い世代の価値観に寄り添う共創投資

丸井グループ 共創投資部 シニアマネージャーの竹下萌氏
丸井グループ 共創投資部 シニアマネージャーの竹下萌氏

丸井グループ 共創投資部 シニアマネージャーの竹下萌氏は、同社が「あらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」というビジョンを掲げていることを説明。

2016年から共創投資を開始し、9年間で60社、200億円を投資。特徴的なのは投資先ごとに協業状況を勘案して組成される「共創チーム」という組織で、グループ全社5000人のうち延べ146名が本来業務と兼任で計17チームに参加し、投資先との協業を推進している点だ。

協業事例として、エポスカード会員がみんな電力の再生可能エネルギーを契約すると、ポイント還元率が向上する独自のプランや、ヘラルボニーとのアート作品を使ったクレジットカード発行を紹介。特に後者では「通常、利用金額の0.5%分のポイントがお客様に付与されるところ、そのうち0.1%分のポイントが障がいを持つアーティストなどに提供されるというモデルを、クレジットカードで作らせていただきました」(竹下氏)と、革新的な取り組みを説明。若い世代からの支持を得て、2年間で2万人が入会したという。

各社とも単なる財務リターンではなく、事業シナジーの創出を重視する姿勢が鮮明だった。大手企業がスタートアップとの協業に本腰を入れる中、今後さらなる連携の加速が期待される。

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