銀行のリテール部門は、コストがかかる割に、あまり利益が出ない部門として、ここ数年苦しんでいる。多くの銀行ではリテール部門を縮小し、全体の収益改善に努めているようだ。
しかし、リテール部門は富裕層に特化をすれば、決して利益が出ない部門でもない。今回は銀行のリテール部門が生き残るために取り組んでいる富裕層ビジネスの実態について説明する。
富裕層ビジネスとは、その名の通り、富裕層をターゲットに投資信託や保険などを販売して利益を上げるビジネスである。銀行は2000年代に入り、投資信託や保険の販売ができるようになったを受け、かなり力を入れてきた。
もちろん、お金のないマス層に投資信託や保険の販売をしても手間暇ばかりかかり、利益につながらない。加えて、ネットを中心に銀行の投資信託や保険の販売姿勢に批判が集まり、ますます利益が取れないようになってしまった。
そこで今、銀行は富裕層に特化をしたビジネスに舵を切ろうとしている。富裕層に投資信託や保険を販売できれば、金額が大きいため、大きな利益につながるからだ。また、マス層に比べ、金融知識が豊富な人が多いため、クレームにつながらないのも富裕層に力を入れている要因になる。
マス層はよくも悪くもさまざまな人がいるため、ちょっとしたことで大きなクレームになる場合があり、対応に苦慮する場合も少なくない。
それに比べ富裕層については多少のクレームがあったとしても対応をしっかり行い、収益につながるため、多くの銀行が力を入れている。
メガバンクを中心に多くの銀行では、支店の統廃合に力を入れている。なぜなら、支店を開けていても大きな利益につながりにくいからだ。家賃負担が重く、人件費がかかるため、支店を閉めてたほうが効率が良いとの判断なのだろう。
あるメガバンクを中心にリモートでの営業に力を入れている銀行が増えている。今までは銀行の店舗に来店をして、金融商品の相談ができたが、今後は対面での金融商品の相談はかなり難しくなるだろう。もし相談をしたい場合は、ウェブ面談などを使ったリモートでの取引が主流になるはずだ。
そして対面での販売に関しては、富裕層に特化をして収益改善につなげるとの見方が優勢だ。一方で、ネット取引が中心となれば、マス層にとっては最寄りの銀行に足を運んで金融商品を購入をできなくなるのは正直、痛手になるだろう。
銀行と聞くと、高給取りであるといったイメージがあるかもしれないが、確かにある程度、年次をつめば高い給料をもらえる。しかし、仕事内容は非常にきつく大変な業界であることに変わりはない。
そんな銀行業界だが、今後最も効率化が進む業界だといわれている。なぜならネットとの相性が非常に良いからだ。リテールビジネスについては富裕層に特化すると同時に、支店をどんどん閉鎖して、一般の人はネットでしか取引ができなくなる可能性がある。
果たして良いことなのか、どうかはわからないが、ネットを中心した取引形態に収れんするかもしれない。ただし、実際にそのような形になると、対面の良さが再度見直しされるような気がする。
文:渡辺 智(メガバンクに11年勤務。法人営業・個人営業に従事)
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