本当は「残業代ゼロ法案」よりはるかに怖い!「副業解禁」の真実

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「副業解禁」は長期的な賃金抑制につながる

実は労働力も「市場原理」で動いている。副業禁止が当たり前の労働市場では、正業だけで生活できる賃金を支払わなければ求職者から見向きもされない。一方、副業が自由な労働市場では副業で収入を補填してでも正社員としての雇用を選択する労働者が増え、平均賃金は低く抑えられる。もちろん低賃金での雇用に応じなければ、副業が当たり前になっても正業の賃金水準は維持できるが、労働組合などで組織されていない個々の労働者や、ましてや求職者に「強気の賃金交渉」は難しいだろう。

2004年に人材派遣が製造業で解禁された際に、政府や経済界は「働く人がライフスタイルに合わせて派遣か正社員かを選べるようになる」と主張した。だが、実際には正社員を希望しながら低賃金で不安定な派遣労働を選ばざるを得ない人が多く、その結果として労働市場では平均賃金を引き下げる要因となっている。製造派遣解禁時に「派遣がイヤなら、正社員を選べばいい」との主張も聞かれたが、いま同じことを発言すれば「暴言」とみなされるだろう。副業解禁も同じ道をだどることになりそうだ。

米国では2008年のリーマン・ショックに伴う税収減で、かつては安定していた公立学校教師の給与が削減され、副業をしないと生活できない状況に追い込まれている。こうした大不況が起これば、日本でも「副業収入がないと生活できない」賃金が常態化するだろう。幸いにして大不況が訪れなければ正社員の給与が一気にダウンすることはないだろうが、中・長期的には副業収入を織り込んだ市場原理で平均賃金はジリジリと下がっていく。

給与明細
副業が当たり前になれば正社員の平均給与は下落する(Photo by chiaki hayashi)

仮に法律で「残業代ゼロ」が可能になったとしても、上司が部下に残業を無理強いするのは難しくなる。高度プロフェッショナル制度の対象となる年収1000万円超の社員が在籍する企業のほとんどは大手で、企業イメージには敏感だ。残業強制による過労死や訴訟が起これば、上司が処罰を受けるのは間違いない。自分のクビをかけてまで部下に残業を強制する管理職はそう多くないだろう。

だが、副業となると話は別だ。仮に副業を抱え込んだ末に過労死に至ったとしても、正業の企業も副業の企業も責任は問われない。副業となれば企業としても労働時間の管理や把握のしようがなく、完全に働く人の「自己責任」となる。副業が解禁されれば、企業は社会的信用や訴訟のリスクが高い長時間労働を強いることなく、長期的に賃金を抑制できる外部環境が整う。

経済界が現時点で「副業解禁」に消極的なのは、長期的なメリットに気づいていないか、あるいは「気づいてはいるけど、とぼけている」かのいずれかだ。本当は「副業解禁」こそが、働く人にとって最も「怖い」働き方改革なのである。

文:M&A Online編集部

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