日本企業は世界の中でも屈指の技術をもっている。日本企業の社員はこうした技術を手に入れる目的で、海外の企業からスカウトの声がかかることがある。
新天地での活躍を夢みて、あるいは今の会社に見切りをつけてスカウトに応じるのもよいだろう。しかしそのスカウトは本当にあなたにとって吉となるのか、雇用契約書にサインする前に考えておくべき点をあげる。
◇ ◇
もう何年も前になるが、ある業界団体から次のような相談を受けたことがある。それは、「リストラや定年退職した技術者が新興国のライバル企業に転職するようになっている。どうしたら転職を思いとどまらせることができるか?」というものだった。
コスト競争力のあるアジアの企業が一気に最先端技術を取り込むために、法外な報酬で技術者のスカウトを行っているという話だった。
こうした破格の好待遇でのスカウトに対し、元社員の海外流出を防ぐのは簡単ではない。彼らがスカウトに応じる理由には、高額の報酬や待遇を提示されたからというものから、自分のスキルを活かせる場所が国内にはない、自社に限らず広く社会のために自分のスキルや経験を活用したい、というものまで理由はさまざまだ。
日本の産業を保護するために転職するな、というのは個人の意思を無視した横暴な意見であろう。筆者自身が同じ立場に置かれたら、誘いにのるかもしれない。
ところで転職には当然リスクもある。せっかく新天地で活躍できると思っていたのに…、ということがないよう、海外の企業からスカウトを受けた場合の注意点をあげておこう。
1.転職後にも今いる会社の機密情報規定の制約を受けないかを確認する。
近年では退職時に機密情報を退職後も開示しない、という誓約書にサインさせる企業がほとんどである。かつては、誓約書が厳格に適用されることは少なかったが、今日では、企業機密を漏洩したとして、裁判になるケースもある。
2.転職先との雇用契約書の内容をよく理解すること。
日本人は、職務内容や業績目標、雇用期間を明確にせずにただ「社員」として雇用される、というのに慣れている人が多いだろうが、スカウトで提示されるのは、「目標を達成したらこれだけ払う」という、プロ契約だ。目標を達成できなければ期待していた報酬も得られないし、契約解除になることもある。また、ノウハウを吸収したら後はポイ、という例もよく耳にするので注意が必要だ。実現できないような目標が書かれていないか、雇用保障はあるか、など法律の専門家に事前に相談するのも一方である。
3.海外で働く場合、生活環境のチェックも重要だ。
駐在経験がない人は、治安や衛生環境、交通インフラなどの悪さに我慢できなかったり、周囲に日本人の同僚も少ないことから、海外生活になじめず、すぐに退職するケースも少なくない。雇用契約前に生活環境を確認するのは外資のスカウトでは一般的なので、必ず現地の下見を要求しておこう。