初の「プリンスホテル」は一般営業用ではなかったが、旧皇族の別荘をリニューアルして皇室専用のホテルとなったことで新興ながらホテルブランドとしての知名度が上がった。一般向けの営業はほとんどせず、「広告塔」の役割に徹したホテル史上まれに見る事例と言っていいだろう。
初代「プリンスホテル」は、新たなホテル用地の取得にも貢献した。朝香宮家から土地・建物を買い取ったことから、旧皇族・華族の広大な邸宅や所有地の売却を持ちかけられ、多数の地主相手との交渉なしに都心の一等地にホテルを展開することが可能になったのだ。
1953年にオープンした旧「横浜プリンスホテル」(横浜市、現在は分譲マンション) は東伏見伯爵別邸、1955年にオープンした旧「赤坂プリンスホテル」(東京都千代田区、現「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」)は朝鮮王族の李王家東京邸、1978年にオープンした品川プリンスホテル(東京都港区)は毛利公爵邸だった。
GICへの売却後も、新たに設立する西武・プリンスホテルズワールドワイド(東京都豊島区)が同ブランドで運営を継続する。「プリンスホテル」の金看板は、引き続き掲げられることになった。これもホテル発祥にまつわる旧皇族・華族たちの華麗なるストーリーがあればこそだろう。
ちなみに「道後プリンスホテル」(松山市)、「水戸プリンスホテル」(水戸市)、「紋別プリンスホテル」(北海道紋別市)などは、西武HDとは関係がない独立系の「プリンスホテル」だ。これらのホテルは西武HDが「プリンスホテル」を商標登録した1992年以前に開業しており、名称使用の差し止めを求めなかったという事情がある。
文:M&A Online編集部
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