救急車って鬼束ちひろさんが蹴っ飛ばしたぐらいで簡単に凹むの?

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救急車の車体強度はどうなっているのか?(写真はイメージ)

「女性が蹴っ飛ばしたぐらいで救急車の車体は凹(へこ)むのか?」と驚いた人も少なくないだろう。2021年11月28日、ミュージシャンの鬼束ちひろさんが、同行していた友人を搬送しようとした救急車を蹴り、ボディーの右後方部分を数センチ凹ませたとして器物損壊容疑で警察に逮捕されたのだ。

小柄な女性が蹴っ飛ばしたぐらいで…

鬼束さんは1980年10月生まれの41歳。身長153cmと小柄で、空手やキックボクシングなどの格闘技経験があるとは伝えられていない。しかも目撃者の証言によると事件当時は泥酔していた様子で、強力なキックを繰り出せるような状況ではなかったようだ。

小柄な女性が蹴っ飛ばして簡単に凹むような車体で、患者を安全に輸送できるのだろうか?実は簡単に凹むことで安全が確保できるのだ。なぜか?衝突時につぶれることで衝突などのエネルギーを吸収し、ボディー内部の人間や荷物、機械などを保護するようになっているからだ。

この仕組みを最初に考案したのは、高級車メーカーの独メルセデス・ベンツ。1953年に発売した「W120 Ponton」で部分的に採用され、1959年に発売した「W111 フィンテール セダン」で全面採用された。ベンツは衝突時にボディーなどの部品を壊れやすくするための「クラッシャブルゾーン」を設けて、小さい力でも凹んで衝撃を吸収しやすくすると同時に、大きく変形しても内部に影響が出ないように工夫している。

国内の鉄道車両でも1994年以降に投入されたJR車両などで、クラッシャブルゾーンを大きくとるようになった。そのほか一部のノートパソコンでも同様の設計思想で、落下時の内部破壊や故障を抑える仕組みを採用したモデルがある。

鬼束さんが蹴ったぐらいで凹むからこそ、安全な患者搬送が可能になる。ただ、凹むことで内部を衝撃から守るとはいえ、「壊れる」ことには変わりない。クラッシャブルゾーンは凹む過程でのエネルギーの伝わり方や力がかかる向き、分散割合などを厳密に計算することで、安全性を確保している。

一度壊れてしまうと、再び同程度の衝撃を吸収することはできない。ボディー表面を元通りに修理したところで、一部でも強度が変われば設計通りに凹まないこともある。なのでボディーが凹んだ場合はパーツを新しいものに取り換えなくてはいけないことも。


事実、鬼束さんが蹴っ飛ばした救急車は患者搬送には使えず、友人は別の救急車で搬送されたという。この事件の最大の「被害者」は、とばっちりで搬送が遅れた鬼束さんの友人かもしれない。

文:M&A Online編集部

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