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GC注記の定点観測

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※画像はイメージです

本記事は、ビズサプリ AW-Biz通信(vol.190 2024.5.1)からの転載です

ビズサプリの久保です。

ゴールデンウィーク真っ只中でのメルマガ配信となりました。

連休でリフレッシュした後にこの記事をお読みいただいている読者も多いと思います。

今回は、「継続企業の前提に関する注記」、いわゆる「GC注記」について検討してみたいと思います。

1.GC注記とは

我が国の財務諸表は、企業会計原則や企業会計基準委員会が公表する会計基準に基づいて作成されます。それらの会計基準を適用する前提は、企業活動が将来にわたって継続されることです。これを「継続企業の前提」と言います。たとえば、有形固定資産の取得価額は取得時の一時的な費用とするのではなく、その耐用年数にわたって減価償却費として費用配分します。これは事業が継続することを前提とした考え方です。

実は、継続企業の前提が成立しない場合の会計基準は存在しないので、継続企業の前提が怪しい場合でも、会計基準に基づいて財務諸表を作成するしかありません。ただし、そのような場合には、財務諸表の注記事項の最初に「継続企業の前提に関する注記」を記載します。「継続企業の前提」の英語は「ゴ―イング・コンサーン(going concern)」ですので、GC注記と呼ばれます。企業は、事業継続が危ぶまれる状況に対して何からの対策を講じるはずです。さまざまな対策を実行することにより、少なくとも期末後1年間は事業継続が確実であれば、GC注記を記載する必要はありません。

しかし、対策を講じても重要な不確実性が残ると予想される場合には、GC注記が必要となります。すなわち、GC注記が記載される企業は、その企業が計画するさまざまな対策を講じても、1年以内に事業継続ができなくなる可能性がある企業ということになります。

GC注記は、会計基準の適用を継続企業の前提に基づいて行っている旨を記載することがその本来の目的ですが、事業継続に黄信号が灯ったことを知らしめる情報とも言えます。

2.GC注記企業数の動向

上場企業は、我が国を代表する企業ですので、GC注記が記載されるような企業はないと言いたいところですが、そんなことはありません。

SBI証券は「継続企業注記銘柄」を公表しており、毎日更新されています。

また、東京商工リサーチは、3月決算、12月決算などの決算公表のタイミングでGC注記企業の分析を公表しており、これは日経新聞でも紹介されるので、目にする方も多いかもしれません。筆者の手元に残っているSBI証券の継続企業注記銘柄は、2020年12月時点のものです。

この時は、東証上場企業のうち55社がGC注記を記載していました。その後、コロナ禍によるGC注記企業の増加がみられましたが、本稿執筆時点(2024年4月15日)では52社になっており、現状はコロナ禍以前のレベルになっているようです。

3.GC注記企業の現状

それでは、この52社がどんな企業かを検討してみたいと思います。

GC注記が記載されている年数を分析すると、4年以上継続して注記を行っている会社が23社あります。半数近い企業に4年間以上GC注記が付いたままということです。そのうち、10年以上が2社あり、創建エースという企業(スタンダード上場)は14年間、すなわち2010年からGC注記が付きっぱなしです。この企業は、設立以来6回も社名を変えており、GC注記が付いた時はクレアホールディングスという社名でした。株価は34円(執筆時点)です。

この企業では、期末後1年間持たないかもしれないという判断が、14年間続いたということになります。GC注記は付いているものの、結果的には継続企業の前提を維持できたということです。

上場市場別にみると、スタンダード市場35社、グロース市場15社、プライム市場2社となります。スタンダードが最も多いですが、スタンダードは企業数も多いので、スタンダードでは46社に1社、グロースは39社に1社にGC注記が付いているという勘定になります。さすがにプライム市場の企業は少なく、ジャパンディスプレイ(2019年より注記)と曙ブレーキ工業(2023年より注記)の2社のみです。

業種別に見てみると、小売業(飲食業含む)が9社で最も多く、情報・通信8社、サービス7社となっています。コロナ禍が主要因であるか、消費者向けの業種のため浮き沈みが激しいことが、業績不振の原因になったと考えることができます。

監査法人別に集計してみたところ、大手と準大手は少なく、ほとんどが中小監査法人です。

その中でも監査法人アリアが8社の監査人になっています。また監査法人ではなく、2名の公認会計士が監査人となっている企業が3社あります。大手や準大手の監査法人は、監査上のリスクが高くそれに報酬が見合わないため、GC注記が付くような企業を避ける傾向があります。

中小監査法人はそのようなリスクを承知の上で監査をしていることになります。

4.GC注記は投資家への注意喚起

GC注記は、投資家にとっては重要な情報ですが、財務諸表の注記事項に記載されるため、一般の投資家は気づかないかもしれません。しかし、SBI証券のウェブサイトや、会社四季報にも記載されています。

またGC注記に至らない場合でも、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象等があるときは、有価証券報告書や事業報告にそのリスクを記載することになっています。

そのような企業はGC注記企業数の2倍程度あります。会社四季報にはそれぞれ「疑義注記」、「重要事象」と書かれています。

これらを合わせるとグロース市場とスタンダード市場の上場企業の7%弱が継続企業の前提に問題を抱えているということになります。思ったより多いというのが実感です。

投資家にとっては、GC注記や重要事象は売り判断の材料になるだけでなく、その後の業績回復を期待した買いの判断材料にもなるでしょう。

しかし、初心者はこのような企業に手を出すのは控えた方がよいと思います。投資判断は自己責任でお願いします。

ビズサプリ AW-Biz通信(vol.190 2024.5.1)より転載

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