学生服モデルチェンジ、2年連続700件超か 酷暑とLGBTQに配慮

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詰襟・セーラー服からブレザータイプに移行する学校が多いそうだ

 相次ぐ学生服のモデルチェンジが全国で700件を超える可能性がある。
 繊維メーカーの日本毛織(株)(TSR企業コード:660002531、大阪市、東証プライム、以下ニッケ)によると、2024年春に入学する生徒の学生服(中学校・高校)のモデルチェンジ数は約700件が見込まれる。2023年春の748件を下回る見通しだが、2021年の約230件、2022年の約400件から大幅に増え、2年連続で700件を超す高水準で推移しそうだ。
 コロナ禍で資材調達が難しく、人手不足や人件費高騰などで納期日に間に合わない事態も起きたが、学生服を取り巻く環境は川上から川下まで厳しい状況が続いている。

モデルチェンジ、LGBTQや酷暑などに配慮

 最近の学生服は、性的少数者(LGBTQ)に配慮したデザインに加え、暑さ対策や動きやすさなど、移動や生活様式を考慮したものが増えている。
 上着は男女ともブレザーで、スカートやパンツは選択制、ネクタイやリボンを廃止する学校、自治体もある。酷暑にも対応し、自宅で洗えるウォッシャブル対応生地の導入も進んでいる。
 愛知県小牧市では、保護者らの「自宅で洗える制服を」との声を反映し、2024年度から市内9中学校の学生服をウォッシャブルタイプに順次切り替える。詰襟・セーラー服からブレザータイプに移行するが、値段は「ワッペンなどを廃止し、現行価格までに抑えた」(市教委)という。
 静岡県掛川市でも市内全9中学校で、2024年度から新デザイン制服に移行する。「制服の簡素化」「値段を手頃に」との声を反映し、紺のブレザーにチェックのパンツ・スカートを全市統一し、ネクタイ・リボンは原則廃止した。これまで女子のセーラー服は1枚9,000円ほどだったが、ワイシャツ・ポロシャツにしたことで1枚4,000円まで下がった。これまで、掛川市内の中学校は学生服が各校バラバラで、販売店は各学校に合わせてサイズ違いの在庫を揃える必要があった。制服を統一することで、こうした店舗の抱える“余剰在庫”解消も期待される。

出荷時期には学校別や性別などを分類して在庫を保管
出荷時期には学校別や性別などを分類して在庫を保管(今年2月、八王子市、学生服販売の「ムサシノ商店」で)©東京商工リサーチ

2022年春の納品遅れが教訓に

 コロナ禍以降、学生服の販売環境は厳しさを増している。国内外で生地生産が一時的にストップし、物流の混乱も拍車をかけた。それでも危惧された事態が起きた。2022年4月、東京都内で新入生に届くはずの制服が入学式までに届かず、大きな問題になった。
 制服のモデルチェンジ数が増えたことに加え、メーカーの工場で新型コロナ感染が広がり、計画通りの生産体制に狂いが生じた。さらに、メーカー、販売店の物流体制も混乱したことで入学式当日までに数十名の新入生に制服が届かなかった。
 こうした混乱を受けて東京都教育委員会は2023年4月の入学式に向け、都内の中学、高校に近年の納品事情を説明し、採寸の早期化などを呼びかけた。文書には、▽一次募集の合格発表時までに学校が契約する制服販売業者の納品見込み状況を把握する、▽合格発表と同時にチラシなどを活用して生徒、保護者に対してひっ迫する納品環境の説明と採寸・注文を早期に行うよう周知、▽納品の遅延をあらかじめ想定し、間に合わなかった場合に備え各学校で余剰制服の確保など対策を講じる、との3点を重点に通知した。
 こうした早期対応で、都教委には2023年4月、学生服の納品遅れの報告や問い合わせはなかったという。

地方では今春も納品に奔走

 一方、地方では一部地域で、販売会社がメーカーから出来上がったばかりの商品を前日の夜ギリギリまで生徒に配達した事例も起きていた。香川菅公学生服(株)(TSR企業コード:802112013、高松市)では4月の入学式前日、岡山の物流拠点まで出来上がったばかりの学生服を受け取りに行き、同日夜に生徒のもとへ届けた。同社は2022年4月にも入学式前日に片道200キロかけて、メーカー工場まで商品を受け取りに行った経緯がある。松野安伸社長は、「このような事態を招く懸念は、以前からずっと持っていた」と話す。それでも「ただ、業界全体が“なんとかなっていた”ので、メーカーも卸業者も小売業者も現状維持を続けていた。その懸念がコロナ禍で顕在化した。人件費、段ボール、原材料、運送費、いろんなものが値上がりして小売を中心に経営はより厳しくなっている」と現状を語る。「小規模販売店の廃業が加速しそう」と先行きを不安視する。

多様な“チェック柄”が小ロットを生む

 全国の自治体が新学生服の採択を次々に決めるなか、メーカー各社は来春の納品対応に追われている。モデルチェンジ数は、2022年比で数%減を見込むが、「ロシアのウクライナ侵攻の長期化で、一部の繊維商社で生地の確保が進まないと聞く」(繊維メーカー)と懸念材料も出ている。生地の確保が困難になっているのは、原材料高だけではない。チェックのズボン・スカートの商品数の増加が、調達難に拍車を掛けているという。上着をブレザーに切り替える学校は、ズボン、スカートを無地ではなく、ほとんどでチェック柄を採用する。学校、自治体により導入するチェック柄はさまざまで、その“チェック”に合わせた配色の生地作りが求められる。このことがズボン、スカートのロット小規模化を進める原因にもなっている。「チェック柄は、無地に比べて生地の調達、縫製の仕方など工程に掛かるコストが大幅に増える。特に、男子制服の詰襟からの変更は、上下無地からの変更となり、より時間を要してしまう」(繊維メーカー)と現状を訴える。

学生服メーカーの納品見通しは

 コロナ禍以降、制服のモデルチェンジが相次ぐが、大手学生服メーカーでは来春の納品環境について「原材料の調達など厳しい情勢に変わりはないが、技能実習生の来日が戻り、その分は良い方向に進みそう」(大手メーカー)と期待する。だが、その一方で「モデルチェンジが増え、先行きの需要が見えにくくなっている」と見通す。ただ、今春、東京などで多くの学校、自治体が採寸の早期化を保護者らに通知したことで、「啓発の効果が大きかった」(同)と話す。晴れの入学式で子供の笑顔をみたい気持ちはみんな同じだ。学生服メーカーや小売店は納品遅れを起こさないためにも、採寸や受付の早期化を求めている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年8月22日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

東京商工リサーチ「TSRデータインサイト」より

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