創業60余年、関西エリアを中心に幼児・小中高生対象の学習塾を経営する成基コミュニティグループ。佐々木喜一会長は、進学塾の枠を超え「人づくり」を問い続けてきた。かつての激しい受験競争に違和感を抱き、社会に向けて自分がどう生きるべきかを問う「志共育」を体系化させた。創業50周年時に「自分の天命の達成度はまだ3%だ」と振り返るほど、その普及へかける想いは強い。その情熱と実践が評価され、2013年から安倍晋三政権下の「教育再生実行会議」に有識者委員として参画。約9年にわたり国の教育改革の現場で志の重要性を訴え続けた。現在、その思想は多くの自治体の教育大綱にも取り入れられるなど広がりを見せている。次世代に何を残すのか。その思想と実践を聞いた。
――経営哲学の根底にあるものは何でしょうか。
受験勉強は昔から「受験戦争」「受験競争」と言われてきましたが、私はそこに違和感を覚えていました。隣にいる人を敵として競い合うことよりも、仲間とともに何かをつくり上げる力の方が、社会では重要ではないかと考えています。私の中でのキーワードは「競争」ではなく「共創」です。
一言で申し上げれば、私の経営哲学は「人づくり」です。それは単にペーパーテストの点数を上げるためだけの教育ではありません。自らのためだけでなく、「世のため、人のため」という目的(Being=あり方)を持ち、他者と協働して社会に貢献できる本物の人間を育てることです。
この「人づくり」への強い想いから、一方的に教えるのではなく「共に育っていこう」という意味を込めた「志共育(こころざしきょういく)」へと昇華していきました。
――「志共育」という考え方について教えてください。
当初は「志教育」としていましたが、実業家で応用行動分析学博士の出口光氏とともに「志は教えるものではなく、人間の内側から引き出すものではないか」という議論を重ねました。「共に育つ」という意味を込めて「志共育」と表現するようになりました。
「夢」は自分自身に向かうもの、「志」は社会や他者に向かうもの。私はそのように位置づけています。これまで多くの子どもたちと向き合う中で、「何のために」という問いに答えられるケースは多くありませんでした。志とは、世のため、人のため、未来のために何を成すのかということだと考えています。
――学力だけでは不十分だと考える理由は。
かつて、京都大学の総長と対話した際、「京大卒で高い学力を持っていても、三分の一は社会で十分に力を発揮できていない」と聞き、衝撃を受けました。論理的思考力はあっても、多感な時期に多様な経験を積んでいない場合、人間としての幅が狭くなることがあります。
大学教育が主に高めるのは論理力などの認知能力です。一方で、コミュニケーション力や問題解決力といった非認知能力が育たなければ、社会や組織の中で十分に力を発揮することは難しい。私は1990年ごろからメンタリングの研究に取り組んできました。ティーチング、コーチング、カウンセリングを成長段階に応じて使い分けることで、子ども一人ひとりの力を引き出すことができると考えています。
――学習塾経営者としての顔を持つ一方、第二次安倍晋三政権下の「教育再生実行会議」に招聘されました。
私は29歳のときに父から経営を受け継ぎ、5教場の学習塾から、グループ全体で150教場を持つまでに事業を拡大することができました。それでも、創業50周年を迎えた2012年、「自分の天命の達成度はどれくらいか」と自問したところ、「3%」だと思ったのです。

その年の12月の大晦日に、当時の下村博文 文部科学大臣から直接お電話をいただき、教育再生実行会議へ有識者委員として参加を打診されました。下村大臣から電話で、「いじめや体罰、教育委員会改革、大学のガバナンス改革、グローバル化など、戦後に匹敵するほどの大改革をやる。ぜひメンバーになってくれ」と告げられたのです。どれ一つとして得意な科目はなかったのですが、これこそが自分にとっての天命を果たす道だと考え、引き受けました。
当時、私の中に「まだ天命の3%しか成し遂げていない」という思いがベースとしてあったからこそ、それが大きなエネルギーになりました。
8年と11カ月の活動では、現場ヒアリングを重ね、それを提言に活かしました。大学を訪れたり、教育委員会の現場を巡ったり、海外へは英語教育の最前線である韓国やスウェーデンまで視察に赴いたりするなど、その間の移動距離は約20万キロ、地球約5周に相当します。それをもとに議論を重ね、いじめ防止対策推進法の制定や、アクティブ・ラーニング(探究学習)の仕組みなど、法律や教育方針のベース作りに寄与してきました。その日々を経て、自身の天命は50%程度まで達成できたと感じています。
――これから先、何を目指しますか?
「志共育」の理念を日本の津々浦々にまで浸透させていきます。日本全国で100万人が「志」を立てることの重要性を理解できれば、まるでオセロの駒がひっくり返るように、日本の社会はガラリと大きく変わるはずです。
そのために、下村氏が呼びかけ、超党派の国会議員や民間有識者が集う「教育立国推進協議会」に現在、参画しています。政策提言を行いながら、さまざまな自治体や首長(知事や市長)とも連携を図っています。地域の教育大綱(教育の根本方針)に志共育の理念を正式に取り入れてもらう動きを全国へ広げているところです。地域から、現場から、日本の教育を「教える教育」から「共に育つ"共育"」へと本格的に変えていく。この実践を全国へ波及させ、日本全体を変革していくこと。そしてその先にある、日本がリーダーシップをとって地球規模の持続可能な社会、そして世界平和を実現すること。その未来へ向けて、これからも歩みを止めるつもりはありません。
PeopleXは、2024年11月、外国籍IT人材の採用を支援するアクティブ・コネクターの全株式を取得し、子会社化した。M&Aに至るまでの経緯について両社の代表に聞いた。