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神戸牛専門「吉祥吉」、Lキャタルトンとの資本提携で世界展開へ

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株式会社吉祥吉ホールディングスの赤木 清美 代表取締役会長

神戸牛専門店としてレストランや焼肉店、そして神戸牛を使ったラーメン店など多様な飲食業態を手がけ、全国約50店舗を展開する株式会社吉祥吉ホールディングスが、2025年、世界最大級のコンシューマー特化型プライベートエクイティ(PE)ファンドであるLキャタルトンとの資本提携を発表した。創業から20年以上にわたり神戸牛一筋で事業を拡大してきた吉祥吉が、なぜこのタイミングで外資系PEファンドとの提携を選択したのか。赤木清美会長に、M&Aの背景から今後の成長戦略まで詳しく話を伺った。

一本の電話から始まった神戸牛事業への転身

ー神戸牛事業の始まりは、テレビ取材の一本の電話だったそうですね。

赤木 清美 会長(以下、赤木):そうなんです。「神戸牛やってますか」という電話がかかってきて、実際はやっていないのに「はい」と答えてしまったんです。私の生き方はいつもそうで、チャンスが来たら「はい」と言うようにしています。「いや」と言ったら未来はないだろうと思って、何でもとりあえず受け入れていけば道は開けるという考えでした。

「いや」と言ったら未来はないと赤木会長
「いや」と言ったら未来はないと赤木会長

ーそこから神戸牛の魅力に深く入っていったきっかけは何でしたか

赤木:やはり売上の変化です。今まで海鮮居酒屋で客単価が5000円だったのに、神戸牛にしたらそれほど忙しくなくても3倍ぐらいになったんです。売上を見た時、本当に驚きました。

当時、多くのステーキ店では「神戸牛もあります、但馬牛もあります」といった具合に、複数のブランド牛を扱う曖昧な位置づけのお店が多かったです。だからこそ、私たちは思い切って神戸牛だけに特化し、その魅力を徹底的に探求していくことにしたんです。

64歳での決断、成長への制約を打破するM&A戦略

ー創業から20年以上経ち、なぜこのタイミングでM&Aを検討されたのでしょうか。

赤木:M&Aについては、実は2017年から動いていました。私のような素人でもここまで会社を大きくして来れたので、ちゃんとした戦略を立てられる経営陣を招き入れたら、この10倍の規模にはなるだろうと考えたんです。

企業としての一番の課題は、すべて私が仕切っていたことでした。各スタッフに責任を持たせていなかった。今はみんなに責任と使命があると伝えています。神戸牛という世界一の食材を扱っているので、それに対する責任があるし、この神戸牛をどのように活かしていくかが我々の使命だと思っています。

神戸牛サーロイン

ー数あるファンドの中で、なぜLキャタルトンを選ばれたのですか。

赤木:「神戸牛」というブランドは確立されているけれど、「吉祥吉」というブランドはまだほとんどの方に浸透していない。それでも神戸牛は世界中でかなり認知度が高いので、世界に展開している企業と組むことで強いブランドが作れるのではないかと思いました。

Lキャタルトンの方々とお話しした時に、私とは全然違う雰囲気を感じました。Lキャタルトンの皆さんは本当によく勉強されている。その勉強は何のためかといえば、未来を作る相手のためにされているということを強く感じたので、一緒にやろうと決めました。

24屋号から数ブランドへ、集約戦略で目指すグローバル展開

ー約50店舗を展開され、現在24の屋号をお持ちです。ステーキ店を例として挙げても「源吉」や「黒澤」など複数のブランド名があります。これらを数ブランド以内に集約する計画の狙いは何でしょうか。

赤木:現在、吉祥吉グループレストランチェーンとしてのブランド力に課題がありました。この屋号統合には、大きな狙いがあります。

まず、お客様の体験価値向上です。お客様がお食事をされて、お帰りになる際に「ここも吉祥吉グループだったんだ」「だから良かったんだね」と思ってもらいたいんです。つまり、チェーン店という先入観ではなく、実際のサービス品質でブランドを認識していただくということです。

次に、マーケティング効率の向上です。24の屋号では広告宣伝費が分散し、ブランド認知度の向上が困難でした。数ブランドに集約することで、マーケティング投資を集中でき、「神戸牛といえば吉祥吉」というブランドイメージを確立できます。

そして、従業員のエンゲージメント向上です。飲食店は人が大きく関わるビジネスなので、スタッフにも「ここは自分の店だ」と思えるようにしたい。明確なブランドアイデンティティがあることで、従業員の誇りと責任感が生まれ、結果的にサービス品質の向上につながります。

吉祥吉グループと関わることによって、お客様や従業員のみんな、そして地域の多くの人が幸せになっていくグループでありたいと考えています。これが、将来の海外展開においても重要な基盤となります。

神戸市中央区南京町の玄関口である長安門
長安門そばに構える神戸牛焼肉八坐和 南京町店
京都祇園に佇む 神戸牛鉄板焼き祇園之いち 内観

インバウンド需要を追い風に、地域特性を活かした出店戦略

ーインバウンド観光客への対応と、今後の出店戦略をお聞かせください。

赤木:神戸は観光地価格で神戸牛の仕入れ値が一番高くなるため、地元の人には手が届きにくい価格になってしまいます。観光地以外の神戸や兵庫県では、もう少しリーズナブルで「今日は美味しいものを食べたいね」という時に気軽に行ける店を作りたいです。

大阪、京都、東京では神戸牛だけでは限界もあるので、和牛と神戸牛の両方を味わえて、その良さを伝える店づくりを広げていきたい。

実際、吉祥吉の顧客の半分以上は訪日外国人となっていて、Lキャタルトンが注目したのも神戸牛の世界的なブランド力でした。

ー海外のお客様が神戸牛を食べた時の反応はいかがですか。

赤木:もう目を見開いて驚かれますね。「わー」という感じで。スタッフも働くことに誇りを感じています。人が笑顔になったり、すごく感動していただけるのは、お金には代えがたいパワーになります。

海外観光客に神戸牛ステーキを紹介

海外展開への布石、神戸牛は日本で、和牛で世界へ

ー将来の海外展開について、対象地域や時期の見通しを教えてください。

赤木:神戸牛は現在、全世界30カ国ぐらいに輸出されていますが、私たちがそれを止めてしまうぐらい、国内でたくさん消費できるようになりたいんです。つまり、本物の神戸牛は、日本に来て食べてもらう。海外では神戸牛ではなく、日本の和牛の素晴らしさを伝える戦略で店づくりを進めていきたいと考えています。

実は私、30数年間パスポートを持っていませんでした。今年になって30数年ぶりにパスポートを取得したんです。やはり実際に現地に行って、その国の文化や市場を肌で感じないとわからないことがたくさんあります。

Lキャタルトンと私たち吉祥吉は、将来的にはアジアや北米を中心とした海外市場で、鉄板焼きスタイルのレストランを展開するビジョンを共有しています。特にシンガポールや香港、上海、ドバイなど、高級和牛に対する知名度や需要が既にある都市は有望だと考えています。

世界最大の神戸牛チェーンから、和牛の魅力を世界に発信する企業へ

ー今回のM&Aを通じて実現したい最終的なビジョンをお聞かせください。

赤木:「神戸牛といえば吉祥吉」と言われるブランドを確立し、その吉祥吉が世界に羽ばたくところまで、Lキャタルトンと一緒にしっかりと作り上げたいと思います。私は本当に人に恵まれているので、その恵まれているものを分け与えて、一人でも多くの方に神戸牛から喜びや幸せを感じていただき、世界を広げていきたいです。

私たちは創業以来、「神戸牛の美味しさを一人でも多くの方に伝えたい」という一心で事業に取り組んできました。Lキャタルトンのグローバルな視点と専門的な知見は、私たちが目指す国内でのさらなる店舗拡大、そして世界への挑戦を実現するための大きな推進力となると確信しています。

一本の電話から世界へ、神戸牛の新たな挑戦が始まる

今回のLキャタルトンとの資本提携により、吉祥吉は新たな成長ステージに入る。同社は創業者である赤木氏をはじめとする経営陣と密接に連携し、「吉祥吉」ブランドのさらなる強化と国内での出店加速を図る。さらに、Lキャタルトンが持つグローバルなネットワークと外食産業における豊富な知見を最大限に活用し、吉祥吉の次なる成長ステージである海外展開を強力に支援していく。

将来的には、神戸牛で培った成功モデルを基に、和牛の魅力を広く伝える鉄板焼きレストランをアジアや北米をはじめとする海外市場で展開していくことを目指している。

一本の電話から始まった神戸牛事業が、今度は世界中の人々に和牛の素晴らしさを伝える新たな挑戦へと歩みを進めている。本案件はストライクが支援した。

吉祥吉 赤木氏(中央)とM&Aを仲介した株式会社ストライクの板東 伊吹氏(左)、吉田 里穂氏(右)
吉祥吉 赤木氏(中央)とM&Aを仲介した株式会社ストライクの板東 伊吹氏(左)、吉田 里穂氏(右)

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