世界半導体市場をリードするTSMC(台湾積体電路製造)。熊本に子会社JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)を合弁で設立して日本では初となる新工場を建設、国内半導体産業に新たな歴史を刻もうとしている。『TSMC世界を動かすヒミツ』を上梓した台湾ジャーナリストの林宏文氏が、同社の世界戦略と日本経済への影響について語った。
林氏は「TSMCが巨大M&Aを実行する可能性は低い」との見方を示す。それというのも「TSMCが実施したM&A案件は極めて少ない。世大積体電路の買収など2〜3件程度で、TSMCの成長にそれほど大きな寄与をしていない。TSMCは自社のDNAで成長する戦略で、M&Aよりもスピードが速いと考えている」(林氏)からだ。日本記者クラブの会見で、M&A Onlineの質問に答えた。
熊本工場では主にソニーが米アップルに供給するイメージセンサー用半導体を製造するが、「(2024年2月の)開所式ではトヨタ自動車の豊田章男会長も駆けつけた。自動車向けの半導体製造拠点となるのは明確だ」という。現在、トヨタは約2.0%のJASM株式を保有している。
一方、国産半導体ファウンドリーとして北海道で生産工場の建設を進めているラピダスについては「2ナノ半導体の量産には少なくとも年間20億ドル(約3140億円)の投資を続けなくてはならない。研究開発費は売上高の5〜8%が適正なので400億ドル(約6兆2700億円)以上の年間売上高が必要になる。それを実現している半導体メーカーは世界でもTSMC、米インテル、韓国サムスンの3社しかない」と、売上規模の側面からラピダスの成功について慎重な見方を示した。
その上で「ラピダスがファウンドリーとして成功するには、先行する3社とは全く違う戦略が必要だが、まだ同社からは新しい考え方は見えて来ない」と語っている。
文:M&A Online
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