オランダ東インド会社とユダヤ教徒

このオランダ東インド会社の設立と発展に重要な影響を与えたのが、トーラー(ユダヤ教の聖書「タナハ」における最初のモーセ五書)の民、そしてディアスポラ(離散)の民でもあるユダヤ教徒だ。ユダヤ教は世界三大一神教の源流である。キリスト教もイスラム教も、源流をたどればユダヤ教から派生した一神教だ。

詳しくは今後のコラムで述べていきたいが、ユダヤ教徒が世界に離散した大規模なディアスポラ(離散)は、大きく2つの出来事がきっかけとなっているとされる。ひとつは紀元前740年頃、北イスラエル王国(古代イスラエル王国はこのころ北イスラエル王国と南ユダ王国に分裂していた)がアッシリアとの戦争に敗れたことによる「アッシリア捕囚」。

そして西暦70年前後に起きたユダヤ戦争。ローマの属州となっていたイスラエルの地に戻っていたユダヤ教徒たちは、領主であるローマ帝国に対し反乱を起こしたが圧倒的軍事力の前に敗れ、エルサレムの第2神殿が破壊された。

離散の民、ユダヤ教徒

この2つの戦争により、古代イスラエルの地にいたユダヤ教徒たちは世界に離散した。ある人々は西へ、ある人々は南へ、そしてある人々は東に離散した。離散したユダヤ教徒の一部は欧州各地に渡り、それぞれの地で定住して持ち前の才覚と努力でやがて重要な役割を演じるようになる。

一つの民族が祖国を追われて世界中に離散した後、2000年以上にわたって自らのアイデンティティを失わずに生き続けた。それだけではない。世界史の中で、とりわけ金融の発展において彼らは極めて重要な役割を演じてきた。それは歴史における一つの壮大な奇跡だ。

それは同時に、移民への軋轢(あつれき)と凄惨な迫害の歴史でもある。欧州のユダヤ教徒への迫害の歴史には、中世のヨーロッパ人たちを苦しめた恐怖の疫病「ペスト」の影響がありありと刻まれているのだ。

一神教と疫病とコーポレートファイナンス

私たちの経済社会の最も重要な基盤となっている企業金融(コーポレートファイアンス)の仕組み。その成立に一神教と疫病の歴史が大きく関係しているとしたら、私たちが今生きている経済社会はやはり「かつての疫病」の影響から逃れられていない。

これは非常に大きなテーマで、筆者の手に余ることは明らかだ。しかし、コロナの脅威に直面する今こそ考えるべき問題だと思う。とりわけ多くの国民が多神教、無宗教である日本人にとってこそ重要ではないだろうか。

次回以降、このトーラーの民・ユダヤ教徒の歴史を通じて、一神教と疫病とコーポ―レポートファイナンスの関連について詳しく書いていきたい。その歴史には、きっとコロナ後の世界を生きるためのヒントがあるはずだ。

(つづく)

文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)

*(旧)「紀元前597年前後、古代イスラエル王国が新バビロニアとの戦争に敗れたことによるバビロン捕囚」を、(新)「紀元前740年頃、北イスラエル王国(古代イスラエル王国はこのころ北イスラエル王国と南ユダ王国に分裂していた)がアッシリアとの戦争に敗れたことによる『アッシリア捕囚』」に変更しました。これはバビロン捕囚よりもアッシリア捕囚の方が離散の規模ははるかに大きかったからです。