数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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「成熟産業の連続M&A戦略 ロールアップ型産業再編の手引き」上野義久著、中央経済社刊
1994年5月1日に酒税が改定され、ビールの税率が上がった。それまでは税金が増えた分、販売価格を上げるのが酒類販売業界の慣例だった。ところが、酒税改定当日の朝に、大手のあるスーパーが値上げではなく、値下げを打ち出したことから大騒ぎとなり、すぐに他のスーパーが追随する事態に発展。その後ビールの安値競争が始まり、次第に酒類販売業界が疲弊するようなっていった。
著者はこの歴史的な変革が起こった正にその日に、三菱総合研究所やボストンコンサルティンググループを経て、父親が社長を務める酒類販売会社に入社したところだった。収益性があっという間に低下する中、ある日すれ違った同業者のトラックの荷台を見ると同じ銘柄のビールを運んでおり、しかも荷台はスカスカだったという。
この経験が連続M&A戦略のきっかけになった。激しい価格競争で疲弊するより、同業者で手を組んだ方が得策だということに気づいたのだ。
その後、数年の時をかけロールアップ型の産業再編を目的にした新会社を設立し、14年間で17社を友好的に統合し、その2年後には2倍以上の規模を持つ同業者と経営統合(現在は退任し中堅、中小企業の高収益化のコンサルティングを手がける)した。この経験を幅広い産業分野に適用できるように多くのノウハウを盛り込んで書き上げたのが本書だ。
成熟産業の連続M&A戦略に関する手引き書との位置づけで、ロールアップについては「小規模で分散した多くの同業者を次々に結集させ、当該市場における主要規模の事業体に再編成する企業行動」と定義する。
同業者を友好的に統合することで、業界トップになろうという大きな志を抱く経営者と、その支援者に向けて書いたという。いくつもの落とし穴に落ち、痛い目に遭った経験を生かし、未然に回避する具体的な注意事項も盛り込んである。
また100点を超える図表を使用しており、ロールアップ型連続M&Aに関するものはもちろん、M&Aに伴う買収先の従業員や経営者の心情の側面、記者会見やパワハラへの対処などに関するものも掲載した。
図表だけを追っても重要な論点をおおよそ理解できるようにしてあるといい「広く中小企業のM&A全般に関する実務上のコツとワナの図解集になった」と自ら評価する。17社をM&Aした事例紹介の部分は小説のようであり、ワクワク感を楽しむことができる。(2023年2月発売)
文:M&A Online編集部
一口5億円や10億円といった大口投資を対象とプラしていたイベート・エクイティ(PE)ファンドが、大きく変わろうとしている。個人投資家による小口の投資が可能になりつつあるのだ。