「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」公式HPより

設立1年で1期100店舗の出店計画はさすがに無茶です

さて、「ナポリス」の運命は、「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」のエムグラントフードサービス(以降:エムグラント)と出会ったことで大きく変わりました。

エムグラントが「ナポリス」のFC展開を支援すると2012年8月に発表したのです。「ステーキけん」を6年で230店に増やしたエムグラント。その勢いは凄まじいものがあります。居ぬき物件を活用して「ナポリス」の初期投資を2900万円に抑え、投資回収を2年で行う。1年で100店舗の展開を目指すと宣言しました。

エムグラントは物件開発、FC加盟店開発、チェーン運営・従業員マニュアルの作成支援を行いました。

居酒屋「世界の山ちゃん」を運営するエスワイフードと加盟店契約を結び、TSUTAYAとコラボレーション店舗を開発するなど、一見順風満帆でした。

でもやはり、設立1年で100店舗を目指すというのは無理がありますね。なぜか。フランチャイズの要、SV(スーパーバイザー)の育成が追いつかないからです。

ここで、飲食店のフランチャイズビジネスについて説明します。

フランチャイズとは、フランチャイザー(今回の場合は遠藤商事)と、フランチャイジー(加盟店)の二つの立場に分かれます。それぞれのメリット・デメリットを見てみましょう。

フランチャイザーフランチャイジー
メリット・店舗運用コストがかからず、キャッシュフローが潤沢に
・店舗拡大しやすく、ブランド認知が広がる
・スケールメリットで仕入れや集客手法が有利になる
・ブランドによる集客力が強い
・銀行から融資を受けやすい
・店舗運営ノウハウが得られる
デメリット・人材育成(SV)に時間がかかる
・店舗(加盟店)のコントロールがしにくい
・一定のロイヤリティを支払う義務がある
・ブランドの風評被害をもろに受ける
・本店が倒産したら宙づりになる

他にももっといろいろあるのですが、だいたいこんな感じです。

新しく飲食店を開業する場合、5年生存率は20~30%。非常に厳しい業界です。一方、フランチャイズ展開の場合、70%が生き残ると言われています。

次に、カネとヒト、モノでフランチャイズビジネスを見てみましょう。

※見かた
カネ:一般的に(ザーまたはジーに)支払う必要があるお金
ヒト:必要とする人材
モノ:提供するもの

フランチャイザーフランチャイジー
カネ・店舗建設費用
・機器導入費用
※契約内容による
・契約金:~1000万円
・保証金:契約解除後に返還
・機器導入費用
・ロイヤリティー:売上の1~10%
・広告宣伝費:売上の3~5%くらい
・商品供給手数料
・スタッフ育成費用
※店舗開発費(ナポリスの場合~3000万円)が他にかかります
ヒト・SV・店長
・アルバイト
モノ・仕入れ先等
・新商品
・販促パッケージ
・経営ノウハウ
・人材教育プログラム

加盟店は高い金額を支払う代価として、飲食店運営に関わるノウハウをこれでもかというほど享受できる仕組みです。仕入れ先確保や、メニュー開発をしなくてもいい、というのは大きいですね。そして集客方法(ぐるなび・食べログなど)が確立されているので、いちいち費用対効果を考える必要がありません。

強いブランド力だけが、フランチャイズ加盟の魅力ではないのです。

そして、フランチャイズにおいて、もっとも重要な要素がSV(スーパーバイザー:店舗巡回指導員)です。SVは経営ノウハウ、市場動向、マーケティング知識、人材育成に関する情報まで、何でも持っていなければなりません。(飲食店素人の)オーナーからすれば、頼りになるのはこの人だけなのです。

急展開する飲食店にありがちなのが、このSVが出店スピードについてこないことです。優秀なSVは経営の深いところまで見てB/Sの改善などを提案してくれます。が、人が薄くなって見きれなくなると最悪です。店舗の管理不足、すなわち正しい現状把握がまるでできなくなります。

2016年ごろの遠藤商事がこの状態。店舗の細かな部分までが見えなくなっていました。

FC加盟店が見えなくなると、当然直営店も同じ状況に陥ります。直営は会社の利益に直結しますので、細かく、細かく見ないとダメなんです。それができなかった。

優秀な経営者は危険を察知して財務状況を確認します。出店を抑えて、問題点や課題を抽出して不採算店舗の閉店などを行います。

遠藤商事は真逆のことをしました。業態転換して、さらに稼ごうとしたのです。収支バランスが悪化→業態転換で売上を増やそうとする→ノウハウ不足で大した売上にならない→焦って別の業態に手を出す→繰り返し。

売上高(とせいぜい人件費、原価率)しか目がいかない、典型的な倒産まっしぐら経営者でした。そんなこんなで、13億の負債をかかえて倒れてしまうのです。

※ちなみに、「ナポリス」のFC加盟店は、遠藤商事に支払った前述の保証金が回収不能になっていると思います。怒り心頭でしょう。

「ヴォーノ・イタリア」公式HPより

ナポリスの運営はロードサイド系イタリアンレストランに引き継がれました

遠藤商事倒産で株価に影響が出た企業があります。飲食店コンサルのG-FACTORY<3474>です。4月28日の1086円から、5月18日には895円まで落ち込みました。なぜか。G-FACTORYは遠藤商事と組んで事業をしていましたが、貸し付けていた8100万円ほどのリース料(出店時の内装設備リース)が、取り立て不能となる可能性があったからです。

結局、お金は回収できました。そして「ナポリス」の商標も、G-FACTORYが手にすることとなったのです。同社は「ナポリス」ブランドを掲げて、以下のような陣形を組みました。

▼本部:ル・クール
▼FC加盟店開発:三鱗事業

ル・クールは、食べ放題イタリアンレストラン「ヴォーノ・イタリア」などを運営する会社。FC店を含め、全国114店舗を展開しています。社長は「ウェスティンナゴヤキャッスル」で修行をし、在カナダ日本大使館の料理長を務めた橘秀希氏。2009年に現在のような直営店舗の展開を始めています。

この方、第6次産業化にも進出をしており、「あいち・じもと農林漁業成長ファンド」の1号案件で出資が決定しています。イタリアン野菜のカット商品、ソースなどを製造販売する予定。出資金額は3500万円になっていますね。

今後は遠藤商事に代わり、ル・クールがFC加盟店の支援を行うようになります。将来、「ナポリス」の食材には、愛知で育ったイタリアン野菜が使われるかもしれません。

ミツウロコ<8131>はLPガスのイメージが強いですが、飲食店事業も積極的に行っている企業。ベーカリーショップ「麻布十番モンタボー」や「元町珈琲」といったお店の直営・FC展開はミツウロコの子会社が行っています。大企業がバックについているだけに、無茶苦茶な店舗展開はしなさそう。

遠藤商事が倒産した際、「500円ピザがなくなるのか!?」とか「もう食べられないの寂しい」といった声が聞こえた「ナポリス」。水面下で再スタートの準備が整っているのでした。

新体制でのオープンは、10月2日ナポリス吉祥寺本店になります。日本初上陸のイタリアンジェラート「スタンカンピアーノ」を引っ提げての登場です。今後の店舗展開から目が離せません。

G-FACTORYプレスリリースより

文:麦とホップ@ビールを飲む理由