【日本M&A史】ENEOSと出光昭和シェルの発足(12)

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日本の近代化、工業化、経済発展の歴史は、M&Aの歴史でもあった。このコーナーでは、日本経営史全体に大きなインパクトを与えた企業合併や企業買収を全12回にわたり振り返ってゆく。最終回で取り上げるのは、「ENEOSと出光昭和シェルの発足―「待ったなし」のエネルギー業界再編」である。

エネルギー業界の規制緩和と自由化

20世紀から21世紀への転換点に前後して、日本における典型的な規制産業とされてきたエネルギー業界にも、規制緩和と自由化の波が押し寄せることになった。それは、1980年代なかばにまず石油業界で起こり、2011(平成23)年の東京電力・福島第一原子力発電所の事故を経て、2016年には電力小売全面自由化、2017年には都市ガス小売完全自由化が実施されるにいたった。

石油業界には、自由化の進行のほかに、業界再編を促す理由がもう一つあった。「日本における石油(一次エネルギー)の供給は、石油危機を契機とした石油代替エネルギー使用の増大により減少したが、1980年代後半~1990年代前半には、原油価格の低落にともなって増加に転じた。しかし、1990年代半ば以降は、石油代替エネルギー利用の活発化、原油価格の高騰などによって、再び減少傾向をたどっている」(橘川武郎『通商産業政策史(1980-2000)第10巻 資源エネルギー政策』経済産業調査会、2011年、26頁)。石油に関する内需が、電力や都市ガスに比べていち早くピークアウトし、その減少に歯止めがかからなくなったのである。

自由化と内需減少が進行する状況下で、石油元売業界の再編が活発化した。その際、再編の手段としては、M&Aが活用された。

石油元売業界の再編

日本の石油元売業界では、規制緩和の時代を迎えた1980年代半ばに、経営統合による業界再編が始まった。1985(昭和60)年の昭和石油とシェル石油との合併による昭和シェル石油の発足、1986年の大協石油・丸善石油・旧コスモ石油(精製コスモ)の合併による新生コスモ石油の発足、1992(平成4)年の日本鉱業と共同石油との合併による日鉱共石(1993年にジャパンエナジーへ社名変更)の発足などが、それである。

その後、1996年の特石法(特定石油製品輸入暫定措置法)の廃止による石油製品輸入の自由化を受けて、石油業界における競争はいっそう激化し、やがて石油元売会社のさらなる大規模再編へとつながった。

1999年の日本石油と三菱石油との合併による日石三菱(2002年に新日本石油へ社名変更)の発足、2000年の東燃とゼネラル石油との合併による東燃ゼネラル石油の発足、2010年の新日本石油と新日鉱ホールディングスとの合併によるJXホールディングスの発足が、相次いだのである。

一連の合併の結果、日本の石油元売会社はいったん、①JX日鉱日石エネルギー(JXホールディングスの子会社、2016年にJXエネルギーへ社名変更)、②東燃ゼネラル石油、③出光興産、④昭和シェル石油、および⑤コスモ石油の、5大グループとその他の企業とに区分されることになった。

その後も、2017年には①と②との経営統合によるJXTGエネルギー(2020年にENEOSへ名称変更)の発足、2019年には③と④との経営統合による出光昭和シェル(社名は出光興産)の発足が続き、わが国における石油元売業界の再編は最終局面を迎えることになった。

電力業界の再編は

このような業界再編の動きは、今後、石油業界にとどまらず、電力業界や都市ガス業界にも広がる可能性が高い。

例えば、電力業界では、2020(令和2)年の発送電分離を機に独立性を高めた各地域の送電会社が広域展開をめざす動き、各地域の発電会社が原子力発電と石炭火力発電との組合せを最適化しようとする動き、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働をめぐって事業主体を改編しようとする動きなどが起点となって、大規模な業界再編が進行するかもしれない。

業界の壁を越え競争が激化

さらに注目すべきは、電力小売全面自由化と都市ガス小売全面自由化を受けて、業界の壁を越えた新規参入が激化していることである。それは、電力会社が都市ガスを売り、都市ガス会社が電気を売ることだけにはとどまらない。石油会社をはじめとするさまざまな異業種企業も、電力・都市ガス市場に参入をはたしたのである。

これらの活発な新規参入の先にあるものは、既存の業界の壁を突き破る総合エネルギー企業の登場である。それが出現する過程では、いろいろな形でM&Aがさかんに行われるであろう。いずれにしても、エネルギー業界の再編は、「待ったなし」の状況だと言える。

◆ ◆ ◆

このコーナーでは、1年間にわたって、日本におけるM&Aの歴史を振り返ってきた。日本経済の発展の節目節目で、M&Aが大きな役割をはたしたことが明らかになった。歴史の流れを変えようとするとき、M&Aは、きわめて有効な手段の一つとなる。これからも、M&Aの動向から目を離すことはできない。

文:橘川 武郎(きっかわ たけお)国際大学大学院国際経営学研究科教授

前回の記事はこちら 「三大メガバンク」の成立―金融危機の発生と長期化(11)

橘川 武郎

1951年生まれ。75年東京大学経済学部卒業。83年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。同年青山学院大学経営学部専任講師、87年同大学助教授。その間ハーバード大学ビジネススクール 客員研究員などを務める。93年東京大学社会科学研究所助教授。96年同大学教授。2007年一橋大学大学院商学研究科教授。15年東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。20年より現職。

著書は『日本電力業発展のダイナミズム』(名古屋大学出版会)、『原子力発電をどうするか』(名古屋大学出版会)、『東京電力 失敗の本質』(東洋経済新報社)、『電力改革』(講談社新書)、『出光佐三―黄金の奴隷たるなかれ』(ミネルヴァ書房)、『出光興産の自己革新』 (一橋大学日本企業研究センター研究叢書)、『資源小国のエネルギー産業』(芙蓉書房出版)、『石油産業の真実―大再編時代、何が起こるのか―』 (石油通信社新書)、『ゼロからわかる日本経営史』(日本経済新聞出版)、『イノベーションの歴史』(有斐閣)など。電力会社10社中7社の社史を執筆ないし監修。

総合資源エネルギー調査会委員。経営史学会前会長。


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