総合建材メーカーの大建工業(大阪市北区)は2024年3月26日付で、高砂熱学工業傘下の空調設備工事会社清田工業(東京都中央区)の株式の80%を取得し、子会社化した。同社をグループに迎えることで、床からの輻射熱による冷暖房システム「ユカリラ」の販売拡大を狙う。大建工業の郷原秀樹常務執行役員と柴崎茂之コンフォート事業統轄部長に、今回のM&Aによって生まれるシナジーと、今後のM&A戦略について聞いた。
―初めに、大建工業の事業と沿革について
(郷原)大建工業は、素材、建築資材に加え、内装工事を請け負うエンジニアリング事業で成り立っています。
戦後まもなくの1945年、のちの財閥解体で伊藤忠商事や丸紅などに分かれる「大建産業」から木材加工事業を継承する形で設立しました。当時は富山県井波(現南砺市)で木材から製材品や無垢フローリング、盆や茶橿(ちゃびつ)などの刳物(くりもの)製品など工芸品を作っていました。それを祖業として、まもなく合板(ベニヤ板)を作り始め、天井材、床材、室内ドアなど製品を増やし、本格的に工業化を進めました。現在、国内では富山(井波)、岡山、三重(久居)、茨城(高萩)の4カ所に主力生産拠点があります。
海外では、1996年にマレーシアでMDF(中密度繊維板)を作り始めたのがはじめです。現在では米国、カナダ、インドネシア、ニュージーランドなど7カ国に進出しています。
―今回の清田工業とのM&Aの狙いについて
(郷原)5年ほど前、エアコンの冷温風を床の中に送り、輻射パネルの中を通すことで輻射熱に変え空調する新システム「ユカリラ」事業をスタートしました。システムの特許は我々が持っておりましたが、当社では床工事はできても空調工事が自前でできませんでした。まだ輻射熱の空調が一般的でない中、販売から施工までシステムを一括して受注するために、空調設備会社のM&Aの検討を始めました。
―一括して受注するメリットについて
(柴崎)材料を売るだけでなく、コンサル~企画~工事も含めた新しいビジネスモデルを確立することに加え、「責任施工」という点でも重要です。ユカリラの優れた性能を最大限お客様に提供するためには、きっちりとした質の高い工事が不可欠です。
実際にお客様からも、空調工事を外注に出さずに「大建工業が最終の施工までやってほしい」という要望がありました。お客様から安心してお任せしていただけるよう、責任施工をするには、自前で空調工事の技術を持つ必要がありました。
―「ユカリラ」システムの開発の経緯
(郷原)ユカリラの基本システムはもともと、仙台のある企業が保有されていましたが、開発された方がご高齢だったことに加え、「もっとこの技術を世の中に広めたい」という想いを持っておられたこともあり、当社からの申し出に快く応じていただき、建材を幅広く手掛けている大建工業にお任せしたい、ということになりました。
―ユカリラを導入するメリットは?
(柴崎)エアコンの空気をダクトで床の中に送り、輻射パネルの中を通る間に輻射熱へと変わる空調システムです。冷気や暖気が輻射熱となりまんべんなくいきわたり、対流式エアコンに比べ、床面からの高さによる温度のムラが少なくなることや、冷風や温風にさらされることもないので、体への負担が少ないのが特徴です。
―ユカリラの需要や成長性をどうみているか?
(柴崎)現在、特に力を入れているのが体育館です。全国の公立小・中学校だけで体育館が約3万5000カ所あります。そのうち冷暖房化が進んでいるのはまだ15%ほどです。そこに大きな潜在需要があると考えています。
ユカリラは冷風、温風が発生しないので、バドミントンや卓球など、風に弱いスポーツにも最適です。
エアコンがある体育館でも、スイッチを切って窓を閉め切って練習している姿を見かけますが、温暖化も進んでいますし、夏場は汗だくになって大変です。両競技ともに競技人口が多いですので、自治体が新しい体育館を施工する際、「卓球、バドミントンができる環境」を仕様の条件にすることが多くなっています。
また、能登半島地震をはじめ、各地で地震や水害が発生しています。災害時に体育館が避難所に使われることは多いですが、多くは冬の寒さや猛暑に耐えられる設計にはなっていません。特に避難所は衝立や段ボールで床を区切るので、通常の対流式のエアコンでは風通しが悪くなり、温風も冷風も届きにくくなります。まんべんなく冷やしたり温めたりすることができるユカリラによって、被災者の負担を減らすことができます。
―このM&A案件の経緯は
(郷原)ユカリラのために、空調工事の会社を探すことになり、仲介会社のストライクさんと打ち合わせたリストの中から高砂熱学工業に興味を持っていただきました。
高砂熱学工業は、空調工事では屈指の高い技術をお持ちです。そのため、半年くらいはユカリラが本当に売れるのか、慎重に検討を進めておられました。当社としては、ユカリラ事業について、M&Aの判断に必要とされるデータをしっかりと示して、ユカリラの可能性について理解していただくことができました。企画、材料から工事まで一体となった新しいビジネスモデルを確立していく。そのために必要なM&Aなのでお力を貸してください、という想いを伝えました。
―清田工業の株式は大建工業が80%、高砂熱学工業が残り20%を保有。どのような協力関係を作るか?
(郷原)ユカリラに関して、優れた空調工事技術を持っておられる高砂熱学工業と協力できるというのも、大きいと考えています。現段階では発表はできませんが、ユカリラ以外でも色々と取り組める場面があると考えております。
―今後も空調工事会社に出資する可能性は?
(郷原)首都圏に次いで市場が大きい関西を中心に、西日本などの空調工事会社とのM&Aを検討する可能性があります。
―清田工業は今後、ユカリラに特化することになるのか?
(郷原)清田工業の今までのお客様を大事にしつつ、ユカリラで売り上げをさらに増やしていくという形になります。
―建材業界のM&Aはどのように進むのか?
(郷原)活発にやっている会社は少ないと思います。オーナー会社が多いためか、集約は進んでいません。マーケットが小さくなっていく中、生き残りのためのM&Aや、企業同士の合併は起きてくると思います。
―空調工事業界のM&Aはどのように進むのか?
(柴崎)非常に好調な業界で、需要が潤沢にあるのでなかなかM&Aは進みにくいと思います。その分人手不足が深刻で、人を集められない会社が淘汰される可能性はあると思います。
―大建工業との資本提携の相手に求める条件は?
(郷原)企業理念に共感してもらえることです。一番大事にしているのは環境やエコに加え、安全・安心・健康・快適な空間を提供することです。そこを大事にしていただけるというのがベストだと思います。
―これから、初めてのM&Aを検討する会社にアドバイス
(郷原)事業や成長を考えたとき、足りないパーツを補完していく、という考え方が一番大事だと考えています。
(柴崎)親会社である伊藤忠商事の企業理念に「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)があります。うちだけが良ければいい、ではなくて周りの人が良いと思うことが大事かなと思います。
米シリコンバレーで創業したHOMMAは、米国でスマートホーム事業を展開しており、将来は日本にも進出する意向を持つ。HOMMAとはどのような企業なのか。また、どのような出口戦略を持っているのか