トップ > インタビュー・事例 > インタビュー >後継者と二人三脚、聴こえの課題解決に挑む「ソリッドソニック株式会社」

後継者と二人三脚、聴こえの課題解決に挑む「ソリッドソニック株式会社」

alt
「ソリッドソニック株式会社」現CEO久保貴弘さん(写真左)と田中哲廣さん(写真右)

「『聴こえなかった人、聴けなかった人』が『聴こえる、聴ける』」をコンセプトに、世界初の骨伝導テクノロジーで、聴こえの課題解決に挑むソリッドソニック株式会社。

「世界初」と聞くと、大企業やITをイメージする方も多いかもしれません。実はこの技術、神戸市垂水区で広告業を営んでいた男性、田中哲廣(てつひろ)さんによって10年がかりで編み出されたものなのです。

そんな田中哲廣さんがご高齢により、後継を探していた際に出会ったのが、現CEOである久保貴弘(たかひろ)さん。現在田中さんはCTOに就任し、二人三脚で事業を行われています。そんなソリッドソニックのお二人に、事業承継の経緯や現在の取り組みについて伺いました。

骨伝導に魅了され、10年という歳月をかけて特許技術を開発

骨伝導テクノロジーの開発者・田中哲廣(てつひろ)さん

田中さん「私はもともと広告業を営んでおり、骨伝導技術は、取引先の企業と話す中で初めて知りました。ちょうど道路交通法が改正され、運転中の通話が禁止になったことを受け、『この技術はこれからの日本に必要なのではないか』と思うようになったんです。

たまたま友人が大阪大学工学部の客員教授をしており、骨伝導イヤホンに最適な素材に詳しい大学教授を紹介してくれました。当時、大型のものにしか使用されていなかったこの素材を小型化して、イヤホンとして活用できないかどうか研究機関やメーカーさんと掛け合い、10年がかりでこの技術を開発しました」

田中さんらによって編み出された技術は特許を取得。世に出ている骨伝導製品とは作りも性能も大きく異なります。

久保さん「従来の骨伝導イヤホンは、音声振動を発生させるドライバー(振動部)と振動を伝達するイヤーチップ(装着部)で構成されています。そのため、振動部と装着部の連結方法や支持方法により振動エネルギーのロスが生じ、それが音漏れになっていました。

当社が開発したViboneは振動部と装着部を1つにして、振動源をダイレクトに掴み、連結によるロスを解消。振動エネルギーを効率的に内耳に伝導するため、音漏れも解消しました」

第一印象でビビッと来た、二人の運命的な出会い

開発当初から10年という月日が過ぎ、年齢とともに田中さんは病に悩まされるようになりました。後継者はおらず、このままではこの技術も絶やすことになってしまう。それだけは避けたかった田中さんは、神戸市産業振興財団を通して後継者の募集を開始。登録後、最初の面談者が、現CEOの久保さんでした。

久保さん「私はもともと、パナソニックで資材調達の仕事をしていました。ある時、担当する取引先が経営破綻したことをきっかけに企業経営に興味を持ち始め、自分自身も経営者の道を目指し始めました。そんな中で知ったのが『事業承継』という選択肢。世に残したいけれど残せない、素晴らしいサービスを持続させることで社会の役に立ちたい、そんな思いで神戸市産業振興財団に後継者登録を行いました。

初めて田中さんにお会いした日にすぐ試作機の試聴をさせていただいたのですが、本当にびっくりするくらいクリアな音質に感動しました。この技術のために、10年の年月をかけてコツコツ取り組んでこられたお話に心打たれ、直感的に後継者になりたい!と思ったんです」

後継者である久保貴弘(たかひろ)さん

田中さん「パナソニックにいらっしゃったということで大手企業ならではの経験、そして販売・経営スキルに期待しました。また、久保さんは私の息子と同じ年で、なんと久保さんのお父様も私と同じ年だと知り、運命的なものを感じましたね(笑)。これから本当の親子のように、頑張っていけるのではないかと思いました」

事業承継が決まってからは商品化に向けての話し合いが進められました。せっかくよい技術でも、きちんと事業として成り立たなければ持続できません。二人で毎週のようにミーティングを重ね「聴こえに問題がある人」をターゲットに選定。そのターゲットに徹底して寄り添った商品開発を進めました。

難聴者をターゲットに、悩みに徹底的に寄り添ったものづくり

田中さん「多くの骨伝導商品は健常者をターゲットにしていますが、私たちの製品は『聴こえない人』や『聴こえに問題がある人』をターゲットにしています。補聴器と違いメンテナンスは不要で、かつ補聴器をつけていると分かりづらいのが特徴。周りに補聴器をつけている、と知られたくない方にはピッタリです。また、片耳難聴の方向けに左右の音を調整できたり、耳の大きさや形に合わせて18部品からカスタマイズできたりと、さまざまな工夫を凝らしました」

田中さんと久保さんの思いが詰まったViboneは、2020年12月1日に無事リリース。まず神戸市の教育会館で「試聴販売会」を行いました。実際に聴こえを体感していただき、気に入ったら購入いただけるイベントです。そこで二人を待ち構えていたのは、大きな驚きと感動でした。

久保さん「10歳の女の子がお母さんと来てくれました。はじめは『聴こえない』と不安そうな表情でしたが、10分ほど経ち、『聴こえる・・・!!!』と大喜びしてくれたんです。その後もたくさんの方がお越しくださり、そのような喜びの声は止みませんでした。なかには初めて音を聴くという方も多く、私自身も感動の瞬間に立ち会わせていただきましたね。改めて、社会的意義の高い仕事だったんだ、と痛感させられましたし、『あかんな』と思った時でもあの時を思い出して頑張れます」

試聴販売会は順調に行われていましたが、新型コロナウイルスの再拡大により、やむなく中止に。現在はお試しレンタルとして、インターネット上でのやりとりを中心としています。メインターゲットはご年配の方なので、対面ほどの売れ行きではありませんが、電話口からも嬉しいお声をたくさんいただけています。

久保さん「やはり時代はインターネット。ターゲットと合わない部分はありますが、まずは間口を広げるためにもインターネット上の販売チャネルを増やそうと考えています。新型コロナウイルスが落ち着いたら対面販売も広げていきたいですね」

田中さん「私たちの技術は、水中や宇宙でも活用できるポテンシャルを秘めています。よりクリアに、鮮明な音を求めている人に合った商品開発も行っていきたいです」

どんな苗でも、思いがあれば花を咲かせられる

事業承継で、「苗から花を咲かせられた」とお話しする田中さん。

田中さん「私はほんの小さな広告屋さんで、骨伝導に魅せられてここまで来ました。それが久保さんに入ってもらうことでなんとか商品化までたどり着けた、どんな小さな苗でも花が咲くんだと実感しています。まだまだ私たちの挑戦は始まったばかり、これから二人でもっとたくさんの感動を人々に届けたいです」

久保さん「事業承継は、企業としての連続性を守るためのものだと考えています。箱だけが残っていても意味はなく、しっかりと先代の思いを紡ぐことが何より重要です。

私自身、後継者登録をした際に『どうせやるのなら、やってよかったと心から思えるような社会に必要な事業を承継しよう』と決めていました。田中さんの技術はまさにそれに相応しく、価値あるものをしっかりと届けられていると実感しています。まずはしっかり軌道に乗せるため、多くの人に知ってもらい使っていただきたいですね」

「音という概念のない人に音を届ける」そんな社会意義の高いミッションに挑まれている田中さんと久保さん。お二人の眼差しは熱く、そして愛に溢れていました。新型コロナウイルスに負けずぜひ頑張っていただきたい、そう心から思わされるような貴重なお話。聴こえに問題を抱えるお知り合いにぜひ紹介してみてはいかがでしょうか。

▼骨伝導集音器 Vibone nezu 3についてはこちらから

NEXT STORY

JSR社長、世界で戦うには「規模と効率性が重要」

ロイター・ニュース・アンド・メディア・ジャパン
| 2023/8/1
2023.08.01

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5