ストライク<6196>は9月5日、富山市の富山県民会館でスタートアップと事業会社の提携促進を目的にしたイベント「第28回Conference of S venture Lab.」を開催した。スタートアップ支援を施策の柱に掲げ、エコシステムの構築に注力する富山県との共催で行われた。
当日は「VCが語る地方におけるスタートアップ起業と成長」をテーマに、メルカリやグノシーなどへの出資実績のあるEast Ventures(イーストベンチャーズ、東京都港区)のパートナー 金子剛士氏と、北陸のスタートアップの育成を支援するベンチャーキャピタルであるHED(Hokuriku Enterprise Development、金沢市)の代表パートナー 髙田諭氏がトークセッションを行ったほか、北陸のスタートアップなど3社によるピッチや名刺交換会などで交流を深めた。
第一部のトークセッションでは、モデレーターを兼ねた髙田氏の自己紹介からスタート。東京のベンチャーキャピタルで10数年間在籍し、地方のスタートアップの支援に取り組んだあと、「40歳を迎える前に、これからのキャリアをどうしようかと考え、地方でいろいろとやってきた経験を活かして、地元でファンドをやることを決意し、2024年4月に北陸地域に拠点を構えるスタートアップに投資をするHEDを立ち上げた」と紹介した。
続いて金子氏が、East Venturesはシード期への投資に特化したベンチャーキャピタルで、国内だけで800社ほどの投資実績があり、現在は国内投資と並行して、インドネシアを中心としたアセアン諸国でも投資を行っていると自社の取り組みを紹介した。
その後、投資先との出会いを聞かれた金子氏は「8割は人からの紹介」としたうえで、起業を目指しているインターン生や、大学時代のゼミやサークル仲間などを伝って、紹介を受けることが多いと明かした。
続けて、この10年で起業する人に変化について、金子氏は「学生起業家がものすごく増えている印象がある」と述懐。この要因として、学生のほうが起業の心理的なハードルが低く、2、3年やってダメだったら就職するという選択肢もあるからではないかとの見方を示した。
また、近年は人材採用目的での企業の買収も増えており、スタートアップがスタートアップを買うケースも少なくないという。
そのうえで「起業家を増やしたいのなら、若者と取り組むのがいいのではないか」と提案、髙田氏に北陸地方での学生起業の現状について聞いた。
髙田氏は、起業家教育に熱心な先生がおり、ゼミ生の起業が増えている事例や、起業したある学生が発した「大企業で、与えられた仕事をやっているだけでは、時代のトレンドに乗っていけない。自分で事業を作り、自分で市場を見て、自分でやっていくことで、リスクをコントロールできる」との言葉を紹介。「こうした感覚の学生が増えてくると、起業の数が増えてくるのでは」と期待をにじませた。
East Venturesは2024年6月に、ストライクと共同で京都市内に学生や若手起業家、スタートアップなどの支援を目的としたオフィスを開設した。East Venturesが地方にスタートアップ支援施設を開設するのはこれが初。すでに3社に出資しているという。
東京と京都で起業家の違いについて聞かれると、金子氏は「インターネットを通じて情報が流通するようになっており、学生がイベントで東京に来たり、投資先の東京の企業と交わったりする機会が増えているため、京都と東京で大きく差を感じるとことはない」と述べた。
話題が成長する起業家の共通点に転じると、金子氏は「数千円規模の時価総額の会社を作った方に会う機会があるが、起業家は言うこともやることもそれぞれ違う。共通点を無理に探して、それを若者に当てはめることに意味はないと思う」と所感を述べた。
一方で成功者のなかには、自らメンターを買って出て、後輩起業家を集めて盛んにコミュニケーションをとる人もいると指摘。金子氏は「(共通点を探したりマネをするのではなく)そうした人の会合で経営の悩みや、よくある落とし穴みたいなものはショートカットできるのではないか」と述べた。
髙田氏も、石川県出身で上場経験のある東京の企業の創業者にメンターを依頼したところ、部活の先輩・後輩のような感じになり、信頼関係を気づけた出来事を振り返った。そのうえで、スタートアップが少ない石川、富山、福井の北陸3県が連携し、先輩経営者と若手起業家の交流を促して、意見交換の質も上げていきたいと抱負を述べた。
第二部のピッチでは、創業85年の物流包装サービスを展開するTSK(富山市)と、ボードゲームの企画から製造、販売までを行うEngames(富山県射水市)、ドローンを用いたイベントを手がけるドローンショー・ジャパン(金沢市)の3社がそれぞれの事業の現状を紹介するとともに、将来の計画を説明した。
文:M&A Online記者 松本亮一
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