ベトナムで事業者向けに食材Eコマースを展開するKAMEREO INTERNATIONAL PTE. LTD.がプレシリーズBラウンドにて、レアゾン・ホールディングス、Quest Ventures、山本徹氏(フーディソン 代表取締役CEO)から約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回の資金調達によりプロダクトの機能拡充、および取扱商品数の拡大を目指す。
KAMEREOは飲食店やスーパーマーケットなどの事業者向けに、BtoBの食材Eコマースサービスを展開している。野菜や果物のほかに肉、卵、調味料、飲料類飲料類など、1200種類以上の商品を取り扱う。
農作物は、ベトナム南部のダラットに構える集荷倉庫にKAMEREOと契約する各農家が輸送する。ダラットの集荷倉庫からホーチミンの配送拠点に農作物をまとめて輸送し、各事業者に配達する流れだ。注文した翌日には商品が届く。
KAMEREOブランドのカット野菜や消耗品も販売する。事業者がキッチンで利用する食品や消耗品にKAMEREOブランドが入ることで、ブランド認知拡大を狙う考えだ。
今後は販売商品の拡充によるプラットフォーム拡大に加え、広告や金融領域への事業展開も見込む。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 田中 卓氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
―― ベトナムの飲食店や小売店の食品仕入れに関する課題について教えてください。
田中氏:ベトナムでは、飲食店の食材は市場で調達することが一般的です。自分で市場に出向くことができない場合は、市場のおばちゃんに買物代行を依頼することが多くなっています。
買物代行の場合は、飲食店のために質のいい野菜を選んだり、値下げ交渉をして購入したりしてくれるようなことはありません。注文は電話のためミスも起こりますし、デリバリーが遅れることも日常茶飯事です。
日本では当たり前のことが、ベトナムでは当たり前ではないわけです。ベトナムではレストランなどの飲食店がモダン化していっている一方で、食材の供給サイドは変わっていない。これまでの市場に変わり、トレーサビリティをもって食材を安定的に供給できる仕組みが必要なのです。
―― 農家はKAMEREOと契約することで、収益機会の拡大が見込めるのですね?
日本と異なり、ベトナムには農協がありません。日本では、決められた品質基準と照らして農協が農作物を買い取ってくれますが、そうした仕組みがないのです。
そうすると農家は、自分の農作物を買ってくれるディーラーや事業者がいるかどうかわからないまま、とりあえずたくさん作り始めてしまいます。収穫が近づくと、手当たり次第に営業電話をすることも珍しくありません。
そこで需要が発生しなければ、作りすぎた作物は捨てるか、かなりの安値で売りさばくことになってしまいます。KAMEREOでは、農作物の需要をあらかじめ見込んだうえで必要な量を農家に発注しているので、農家にとっては安定した収益機会になっています。
―― 創業のきっかけを教えてください。
元々は証券会社に勤めていました。営業でありながらIRの業務にも携わる機会があり、普段は聞けない、さまざまな投資家や経営者の話を聞く機会に恵まれたんです。
その中で印象的だった話が、「日本で飲食分野の事業を始めてもアップサイドがない」ということです。一方で、日本以外の新興国では外食が成長産業になっていました。これは面白いと思い、以前からいつかは飲食店をやろうと思っていたことも後押しして、海外で見つけたのがピザ店の「Pizza 4P's」でした。
当時、まだ1店舗しか展開していなかったタイミングに入社を決め、店舗の運営にかかわることはすべてやりました。事業規模の拡大に伴い、新店舗の立ち上げなど店舗展開に携わる中で感じていたのが仕入れに関する課題です。自分で飲食店をやりたい気持ちがありながらも、まずは飲食店の抱える大きな問題を解決しようとKAMEREOを創業しました。
―― 創業当初から今の事業を展開していたのでしょうか?
当初は日本で飲食店向けに受発注プラットフォーム事業を展開するインフォマートを参考に、サプライヤーとレストランを繋ぐ受発注プラットフォームから始めたのですが、うまくいきませんでした。日本とベトナムでは、産業構造が異なるんです。
日本では、飲食店の多くはチェーン店です。大規模にチェーン展開する企業でサービスが導入されれば、取引しているサプライヤーへの導入も自ずと進みます。
ベトナムが日本と異なるのは、飲食店もサプライヤーも小規模な事業者がほとんどである点です。一社ずつ地道に営業をして、何とか100社程度は導入が進みました。
導入を進めた後に多く発生したのが、レストランからのクレームです。その多くは、注文した商品が届かない、間違っている、遅れているといった内容です。要は配送が機能していないわけですね。それならば、サプライヤーとレストランをただ繋ぐことに意味はありません。
こうした経験から、必要なものをしっかりと配送する部分を自社でやろうと、野菜の配送から事業を開始しました。ユーザーの利便性を高めて単価を上げるために、野菜以外の食品や飲料にも広げる形で今のプラットフォームが出来上がっていきました。
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
売上は順調に伸びてオペレーションや倉庫のPLは黒字化しているものの、会社全体としてはまだ赤字の段階です。シリーズBラウンドの資金調達を今年予定しており、それまでの運転資金として調達を行いました。
また、商品の拡充という点で魚介類の販売を開始します。そのためのインフラ整備や、現在保有する倉庫のキャパシティも考慮しながら、必要に応じて別の拠点に倉庫を作ることも検討しています。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
これまでの3年間で、ホーチミンにおける食材ECで顧客を獲得することができ、PMFは達成できたと考えています。そのうえで現在取り組んでいるのは、HORECA(ホテル・レストラン・カフェ)以外にも顧客の幅を広げていくことです。
サービスとしての機能も拡張していきます。これまでは農家から仕入れて、それを事業者に売るというビジネスをしていました。ここにマーケットプレイスの機能を持たせることで、販売料金から手数料を得るモデルも開始し、広告やファイナンスに関するサービスも追加していく構想です。
ベトナムは日本と異なり、銀行からの借り入れが簡単ではありません。当社がサービスで得たユーザーの販売データを活用して支払いリスクを可視化することで、ユーザーが必要なタイミングで後払いの注文ができるよう、すでに後払い決済に関する事業者と話を進めています。
ベトナムの食品流通市場は年々伸びている一方で、明確なリーダー企業はいまだ存在しません。安全性やトレーサビリティの重視など、市場のトレンド変容も起きています。こうした中で当社はホーチミンで事業を展開してきた実績があるので、これをしっかりと横展開してやりきることが重要です。
そのためには長期で事業を見据える必要がありますし、お金もかかります。ベトナムの食品流通は、日本企業にとっても魅力的に映る市場です。長期で大きなマーケットに共に取り組みたいと思っていただける企業にご一緒いただけると嬉しいです。