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スタートアップの社会課題解決とビジネス化、上場果たしたフーディソンはなぜできたか Conference of S venture Lab.

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第22回 Conference of S venture Lab.

ストライク<6196>は5月9日、札幌市内でスタートアップと事業会社の提携促進を目的とした交流イベント「第22回 Conference of S venture Lab.」を開いた。

第1部のトークセッションでは「IPO起業家が見る、スタートアップによる社会課題解決とビジネス化」をテーマに、飲食店向けに水産品を卸売りするウェブサイト「魚ポチ(うおぽち)」や、鮮魚小売店「sakana bacca(サカナバッカ)」、鮮魚加工、精肉加工、青果販売や飲食に特化した人材紹介サービス「フード人材バンク」を経営の三本柱とする、フーディソン<7114>の山本徹代表取締役CEO(最高経営責任者)が、事業の立ち上げやIPO(新規株式公開)などについて取り組み姿勢や苦労話などを披露。ABAKAMの松本直人代表取締役がモデレーターとなり、トークセッションを盛り上げた。

社会から必要とされ続ける会社を作りたい

冒頭、山本氏は、富士山測候所で働いていたこともある公務員の父親とともに、幼少期から週末に登山をしていたこと、3000メートル級の登山では滑落しないように父親の足を置いたところに足を置くようにしていたこと、危険回避のために登頂後速やかに下山すること、というハードな経験を振り返り、「それが困難を乗り越え、チャレンジしていく今の自分の強さにつながっていると思う」と述べた。

起業に関心を持ったのは、北海道大学工学部在学中。会社経営の面白さを教えてくれた第2、第3の親ともいえる人たちとの出会いがあったためで、大学卒業後に就職した不動産会社時代に知り合った仲間とともに、2003年に介護医療系の情報インフラを作るエス・エム・エス(2008年に当時のマザーズに上場)に創業メンバーの1人としてジョインした。

その後、改めて自身で新しいテーマを探していた際に、漁師との出会いがあり、2013年に「生鮮流通に新しい循環を」創り出すことをビジョンに鮮魚流通事業を始め、2022年に生鮮流通プラットフォーム事業で上場を果たした。

これに対しモデレーターの松本氏は「会社を作った時からIPOを目指していたのか」と質問。山本氏は長く続く会社を作りたいとの考えを示し「創業時に、自分の人生の時間を超えて社会から必要とされ続ける会社を作りたい、という思いがあって、”世界の食をもっと楽しく”というミッションのもと創業している。上場するのはそのための一つの基準を超えることという思いがあった」と返した。

また松本氏の「一次産業と卸売りは、難しい領域だという印象を受ける。この領域にチャレンジすることを決めた理由は何か」との問いかけに、一般的な卸売りの粗利益率は10%を切る水準だが、現状の魚の卸売りの粗利益率は30%ほどあること、専門性の高い人材が深夜に一つひとつ手間をかけてやっているため高コストオペレーションになっていて、その水準の粗利益率がないと成り立たない現状であり、オペレーションサイドにイノベーションの余地があることを説明した。

そのうえで「設備投資などで効率化し、コスト削減ができたら、圧倒的に収益性の高い流通ビジネスができるかもしれないという考えに至った」と答えた。

第22回 Conference of S venture Lab.
第22回 Conference of S venture Lab.会場の様子

オペレーションの差別化を侮るなかれ

さらに松本氏から、事業の差別化について聞かれると、オペレーショナルエクセレンス(業務の作業を磨き上げることで、競争力が高まる状態)による差別化を信じているという山本氏は「特に鮮魚流通業界への参入のように未経験の業界への参入時は、初めはオペレーションによる差別化から入り、キャッシュマネージメントをし、業界のラーニングを進める。業界構造を理解していくなかで、構造的差別化要素を作り込んで、いわゆるMoat(モート)を築いていけばいい。業界によるが、完璧な差別化ができた状態で事業は開始できないし、インサイダーにならなければ、業界外の多くの人が気づき、真似できるレベルの差別化しか生まれないのでは。重要なのは、差別化の仮説は当然持つとして、ラーニングしながらミルフィーユのように差別化を積み重ねていくことなのでは」と展開。「オペレーションの差別化と、オペレーションの差を生む組織力や、組織文化の模倣は難しい。そこは強固なものになり得る」と強調した。

これに対し「そうした自信はどこから来るのか」との松本氏の質問には、エス・エム・エス立ち上げ期の体験を理由に挙げる。「創業初期は皆で人材紹介の営業をしていた。初めは全然成果がでなかったが、営業のノウハウを体系的に学び、オペレーションを練り上げていくことで、圧倒的に高い成果を出せた体験がベースになっている」と答えた。

また松本氏の「ビジネスの進め方が一貫している」との指摘には、「今は魚の卸売りと小売り、人材紹介を三本柱として運営しているが、これまでに10以上のサービスを立ち上げている。後から説明するとあたかも全てが想定通りやっているみたいに聞こえると思うが、現実はそんなことはない、試行錯誤の中で作り込んでいる」ときっぱり。

さらに「これからの成長戦略において、作りたいビジネスや、狙いたいマーケットはあるのか」との質問に対して、即座にM&Aを挙げた。魚の水揚げ時にいい状態を保てるようにすれば、今以上においしく食べることができ、今以上にバリューが出せるとし、「売り先を拡大したいと思っている水産会社さんなどと一緒に、新しい商品を作っていければ」と将来の構想を語った。

最後に「上場するまでの間、一番苦労したのは何か」との問いに対し、組織作りと回答。創業3年ほど経ち、採用を増やし一気に企業規模を拡大しようとしたが、逆に社員の退職が増え赤字が膨らんだ出来事を振り返った。

北海道の4社がピッチ

第2部のスタートアップによるピッチでは、人工衛星などの宇宙機向け推進系(エンジン)の開発・製造・販売を手がけるLetara(札幌市)の櫻井惠介取締役CFO、ハンターと鳥獣被害に悩む農家、ジビエを購入したい飲食店をつなぐプラットフォームを運営するFant(北海道上士幌町)の高野沙月代表取締役が事業内容を説明。

さらに、灯油などの配送事業者などに利用され、データから最適化した配送計画を自動生成するサービスを手がけるゼロスペック(札幌市)の多田満朗代表取締役、高度な画像解析に適した畜産用専用カメラの販売や食肉評価システムの研究開発などを行うMIJ labo(北海道帯広市)の鹿野淳代表取締役が、それぞれの現状や将来展望などについてアピールした。

次回の「第23回 Conference of S venture Lab.」は5月22日に、東京都港区の麻布台ヒルズ ガーデンプラザB, 5階で「これからのスタートアップ・ファイナンスのあり方」をテーマに開く。

文:M&A Online

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