片岡
小笹さんは、デューデリジェンス(DD)含めて慎重にやりながら熟考して決めるのか、それともトップ同士の握りでグッと決めるのか、どちらでしょうか?
小笹
実は僕、最初は「この案件、ええんちゃう?」みたいな直感を大事にしているんです(笑)。リアルな話、現在グループ入りしている、とある会社もそうでした。相手方から「現場でDDをやっているけど、ちょっと小笹さん2人だけで飯食わないか?」って急に呼び出されました。「僕が今から一方的に言うから1分で答えて。1分で小笹さんNOだったらこの話なかったことにしよう」と。いきなり結構な額を一発でバンと言われて、その時、ここは男気を見せようということで「はい、わかりました」と言いました(笑)。
もちろん、うちの優秀なスタッフが細かくDDしてくれていて、うちとしてポジティブな評価を事前にしていたので言えたことですが、あとでトイレに行ってうちのCFOに「OKしちゃったけど大丈夫?」って聞いちゃいました(会場笑)。結果、何も問題はなく、今思えばあの時に即時OKして良かったと思えるM&Aとなりました。
僕自身最後は、感覚と信頼と賭けで決めています。いかなる分野であっても、どんなに調べつくしても不透明な部分は出てきますので、賭けの部分は残ります。でも、そこに賭けていく、飛び込んでいく。で、買ったからには必ずそこの社員を幸せにしたいし、我々もメリットをとりたいという腹括りがポイントなのかな、と思います。
いままでのM&Aで、これは失敗だった、もしくはヤバかったという例があれば、教えてください。
小笹
弊社は、様々な会社にモチベーションを切り口にした組織診断を提供しています。M&Aした場合には、当然その会社にも導入します。その組織診断結果を見て、びっくり仰天という事もありました。「ぼろぼろになっているやん、この組織」と。DD段階ではどうしても財務面が先行しますので、組織とかなかなか見れないんです。買収してから組織診断すると「うわ、なんだこれ」みたいな。大体そんなところからスタートします。
ですからM&Aの場合、最初は失敗なんです。そこから弊社のツールを使いながら、これ変えよう、あれ入れようとか。テコ入れすると、そこの社員が「あ、今度のボスはよくわかっているな。私達の組織を見てくれているな」と思ってくれる。いろんな手立てを経営としてレスポンスしていく中で、2年3年かけてしっかりとしたグループ会社してきました。
ですので、失敗と言われると最初はみんな失敗からスタート。せっかく仲間に入ってくれたんだし、ご縁をいただけたので、盛り返していくつもりでやってきましたね。
片岡
小笹さんからみて、M&Aが経営に果たした役割は何だったのでしょうか?
小笹
そうですね。やっぱりこれは何をおいても時間短縮。時間を買うという点です。もちろん、時間を買うということは、一気にアセットを手にするということで苦労も伴いますし、予期せぬリスクみたいなものも、当時想定していなかったリスクも顕在化したりします。しかし事業を拡大成長していくうえでの時間短縮というのは、自分の年齢を重ねれば重なるほど価値が高まっていきますので、私にとってM&Aの価値は、時間を買うということに尽きると思います。
今弊社は、生意気にも日本を株式会社に見立てて、その中の人材開発部の役割を果たそうとしています。そういう意味では労働人口が減少していく中で、一人一人の生産性を高めるにとどまらず、女性にも活躍してもらう、シニアにも健康になっていただき働いていただく。もしかしたら外国人にも労働市場に入っていただくかもしれません。そういうニーズのある分野に組織を配置していく。そうして配置した組織も活性化していく。この構図の中に合致するものであれば迷うことなく、積極的にM&Aは今後も継続していこうと思っています。
本記事は「INOUZ Times」から提供を受けております。
アルバム、手帳などの製本業界で、数々の買収を成功させ軌道に乗せてきた銀行出身の社長に企業買収やその後のマネジメントについて聞いた。