高知県で調剤薬局2店舗を展開する有限会社あさひ薬局を創業・経営してきた尾立忠志氏。ある事情から、急きょ経営から手を引かなければならなくなった。

譲り受けてくれる知人の経営者はいたものの、希望する譲渡期限までは、あと2カ月──。時間のない中で、どのようにしてスピード成約に至ったのか、今回は、尾立氏と今回のM&Aの相談を受けた四国銀行の安岡潮氏にお話を伺った。

家族の看病のためM&Aをして引退することを決意
経営理念を貫く難しさも感じていた

あさひ薬局を開業された経緯を教えてください。

尾立氏:私は23歳から47歳まで明治製菓の製薬部門(現在のMeiji Seika ファルマ)に勤務し、その後は日清製粉の新規事業立ち上げのための基盤整備に携わりました。

 以前から自分の信念を貫く情報提供を心がけておりましたが、57歳のとき、信頼関係のある医薬品卸の会社から「これまでの知識や経験、人間関係を故郷の高知で発揮しないか」との申し出をいただき、薬局を開業することになりました。開業に必要なすべてを整え、私を迎えてくれたのです。

譲渡を検討されたきっかけは?

尾立氏:直接の理由は家族と過ごす時間をつくるためですが、経営理念を実現することに限界を感じていたこともありました。

 私にとって来店する患者さんは『家族』。家族に接するように患者さんとコミュニケーションをとり、服薬指導をすることを旨としてきました。また、真に患者さんのことを考えて、もうけにつながらないことでも伝えるように心がけていました。

 長年にわたり自分の信念に沿って医薬情報を学び提供してきた私にとっては、それが当たり前の経営なのですが、そのような私の経営理念はなかなか世の中には通用しません。一般薬剤師は目の前の患者さんではなく、処方せんと薬だけを見たがりますし、医薬品行政は増大する医療費抑制のため、どんどん方針を変えていきます。自分の信念に基づいた経営を続けていくのは難しく、特にジェネリック推奨の方向づけに関して患者さんに対し申し訳なく感じるようになってきました。

 そんな折に妻が大病を患いました。それで経営から離れ、妻のそばで看病することを決断したのです。