数あるビジネス書や経済小説の中から編集部おすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。
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「M&A経営論 ビジネスモデル革新の成功法則」宮原博昭著・東洋経済新報社刊
「M&A経営論 ビジネスモデル革新の成功法則」は、学研ホールディングス代表取締役社長の宮原博昭氏による「日本型M&Aのすすめ」を説いた本である。「弱肉強食のM&A」を欧米型とするなら、日本型は「対等に融合を図るM&A」だという。
宮原社長は2010年12月に学研ホールディングスの社長に就任。4期連続の赤字から同社を救い、13期連続増収、9期連続増益とV字回復を果たした。その要因は社員の頑張りと積極的なM&A戦略にあった。
多くのM&Aが失敗に終わるなかで、業績に結び付くような結果を残す秘訣は何なのだろうか。宮原社長がM&Aの現場で試行錯誤しながら「勝ち筋」を見つけていくさまは、本人が「M&Aの成否は数字でなく現場で決まる」の一言に集約される。
本書には数多くのM&Aを実践してきた経験者ならではの示唆に富む指摘が散りばめられている。例えばM&Aの解説書などで定説となっている「過半数の役員を送り込んで取締役会を支配しなさい。親会社としてガバナンスを効かせるにはそれが常識だ」というのは間違いで、宮原社長の経験上、「それを真に受けるとかなりの確率で失敗する」そうだ。
第4章のM&Aを成功させる17の原則では、「先方との面談は30回」や「デューデリジェンスでは数字の裏を読め」「撤退戦は礼節を重んじて」など、まるでそこに指南役のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)がいるかのようだ。
”グループ・イン”した企業(宮原社長は「買収」と表記しないよう気を付けている)を大切にする様子から、さぞ温厚な方なのかと思いきや、アクティビストに対しては一転「株主だけ一足飛びに利益を掠め取ろうという発想は間違っていると思う」と手厳しい。
M&Aを成功させるためには、担当者個人のM&Aの経験知を組織全体に広げ、後進に伝えることが重要だと説く。宮原社長は1億円規模から400億円規模までのM&Aを経験し、「M&Aは、産業界全体にもっと浸透していい経営戦略だ」と言い切る。
M&Aは決断力が試される経営戦略だ。「事業に失敗はつきもので、連戦連勝はあり得ない。仮にあったとしたら、それは何もチャレンジしていない証拠だ」とエールを送る。宮原社長の手腕にこれからも注目したい。(2023年3月発売)
文:M&A Online
「ただ廃業することは、無責任。最後まで、責任を持って廃業しませんか」。著者は中小企業の経営者に、こう呼びかける。その責任ある廃業とはM&Aだという。