のれんの急増理由

※この記事は公開から1年以上経っています。
alt

3.どちらが優れた会計基準なのか?

のれんは、M&Aにより取得した経営資源のうち、個別に評価できなかったもの、とりわけ無形資産の部分と、必要以上に支払ってしまったプレミアム部分から構成され、それが最近のM&A市場の活況と、のれんが非償却であるIFRSへの会計基準変更により、企業のバランスシート上の残高が積みあがってきている状況にあります。

上述した29兆円という金額は、日本経済新聞社が、約3,600社の上場企業が2016年末時点で計上しているのれんの金額を集計したものですが、1年前に比べて4兆8,000億円と、約2割増加していることになります(なお29兆円の残高のうち、ARM社やスプリント社など海外の大型M&Aを行ったソフトバンクが4.9兆円と1割以上を占め、続いてM&A積極企業として有名なJTが1.6兆円、NTTが1.3兆円と続きます)。

IFRS(米国会計基準も同様)では、のれんを定期的に償却せず、減損会計一本なので、M&A対象企業(あるいは事業)の業績が当初計画した通りに行かなくなると、突然に減損損失を計上してしまうことになります。最近の最たる例が、東芝の原子力事業絡みののれんに係る減損損失(2017年2月14日発表の業績見通しによると7,000億円超)です。さらに東芝は、ウエスチングハウスで内部管理体制に不備があったとして現在も調査中であり、2016年12月第3四半期の監査法人によるレビュー手続が現段階においても完了せず、決算数値を確定できないまま特設注意市場銘柄に指定されてから1年6ヶ月が経過しており、今後内部管理体制が改善されていなければ上場廃止のおそれがあるとして、監理銘柄に指定されるという、異常事態に直面しています。

東芝に限らず、のれんを減損している事例は枚挙にいとまがなく、のれんが積みあがって来ている状況において、比較的世界経済の先行きが好調と見られている現時点では、(もちろん個別案件ごとの判断はありますが)全体として今すぐのれんの減損損失が顕在化するわけではないと思われます。しかし今後、世界経済の不透明感が増すことがあって、将来の業績見込みが悪化すれば、途端に減損損失が噴き出すリスクはあります。

日本基準では、最長20年以内で規則償却していくことから、数年で償却し切ってしまうことが多いので、保守的な会計処理と言えます。またのれんの減損については、事業ごとの将来キャッシュ・フローで判断しますが、年月が経つ程事業を再編したりして、個別の将来キャッシュ・フローを掴みづらくなります。さらに、一見のれんが維持できているようでも、それがM&A時点に存在しているものが引き続き継続しているためなのか、新たな「のれん」が生まれて来ていてそれによるものなのかの判断も、難しくなっていくでしょう。

個人的には、のれんが未来永劫続くことは稀なので、償却するルールである日本基準の方が健全と思います。但し、IFRS上で確かにのれんは非償却ですが、日本基準よりも企業結合時に認識される無形資産の範囲が広いと考えられるので、のれんではなく、償却性の無形資産に配分されるものは定期的に償却されます。従って、日本基準でのれんとされるものが全て、IFRSでものれんとして非償却となる訳ではありませんので、ご注意下さい。

無形資産の基準が狭く、従ってのれんが大きくなりがちだが償却ルールのある日本基準と、無形資産の基準が広くてその分のれんが少なくなり、但し非償却のIFRSのどっちが優れているかは、時代が要請するものと思います。のれんに限らず、会計ルールが大きく変わるのは、大抵何か問題が起きてからです。現行でベストと思われる基準であっても、問題が頻繁に起こるようになれば改正されていくもので、唯一絶対的なものは作れないというのは、会計を含む社会科学全般に言えることです。

ビズサプリグループでは、M&Aの際の財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス企業価値評価、またM&A実行後の組織再編や統合作業の各種サポート、買収した会社の財務経理業務のアウトソースも行っておりますので、機会ありましたらご相談頂ければと思います。

文:株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.050 2017.3.29)より転載

のれんに関する記事はこちらもどうぞ
「のれん」を考える
一際異彩を放つ『負ののれん』とは何だ?
負ののれん 続編
ドメスティック企業がIFRSを適用して得る5つのメリット

NEXT STORY

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5