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コーポレートガバナンスを考える CGSガイドラインの改訂と取締役会の実効性(上)
経済産業省は2022年7月に「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を改訂した。その中で筆者が欧米諸国との比較で特に興味深いと思った点をいくつか紹介する。
コーポレート・ガバナンス・システムを議論する経済産業省のCGS研究会の座長である学習院大学の神田秀樹教授が「日本としては珍しくアメリカではなく、ヨーロッパ、特にイギリスを参考に、ボードとエンゲージメントの2つの焦点を当てたことは特徴的」と述べているように、日本のコーポレートガバナンス・コードは英国の制度を参考にしている。
その英国では、取締役会の実効性を支える制度として、カンパニーセクレタリー(Company Secretary)制度がある。
カンパニーセクレタリーは文字通り「会社秘書」というべき存在であったものの、1856年の会社法で会社役員として認識され、1948年の会社法でその選任が義務付けられ、1980年の会社法で上場企業のカンパニーセクレタリーに対して専門職資格の保有や職務経験などの資格要件が課されるようになった。
そして、2018年のコーポレートガバナンス・コードとそのガイダンスでコーポレートガバナンス全般に関する責任者として担うべき具体的な役割が明記され、現在ではコーポレートガバナンスに関するプロフェッショナルとして、コーポレートガバナンスの統括責任者たる地位を有るするに至っている。
具体的には、コーポレートガバナンスに関するすべての事項に関する取締役への助言、議長の支援、取締役会と委員会が効果的に機能することの確保、新任取締役の支援、取締役会のトレーニングのアレンジ、取締役の知識や能力を高めるための必要な資源の提供など、取締役会の実効性確保に向けた様々な役割を担っている。そして、彼らには職責に見合った報酬が支払われている。
日本のコーポレートガバナンス・コードでは、「原則4-12(取締役会における審議の活性化)」、「原則4-13(情報入手と支援体制)」などがカンパニーセクレタリーの発想を引き継いでいると考えられるが、直接の言及は無い。これは、日本の取締役会は英国と異なり、監督機能に特化させるモニタリングボードではなく、また、日本企業の管理部門も「縦割り」で、以下のように対応部署も多岐にわたるため、時期尚早と考えたからかもしれない。
<カンパニーセクレタリーの主要業務(日本企業の所管部門との相関)>
出所:経済産業省CGS研究会(第1期)「第5回寺下委員説明資料」(2016年10月20日)4頁
フィデューシャリーアドバイザーズ 代表
上場事業会社、大手証券会社の投資銀行部門を経て、現職。平時の株主価値向上のコンサルティング業務、株主総会におけるアドバイザリー業務、M&Aにおけるアドバイザリー業務、投資業務などに従事。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター(WBF)の招聘研究員に嘱任し、企業法とファイナンスに関する研究に従事。著書は、「構造的な利益相反の問題を伴うM&Aとバリュエーション―理論と裁判から考える現預金と不動産の評価―〔上〕〔下〕」旬刊商事法務2308号・2309号(共著、2022年)、「米国の裁判から示唆されるわが国のM&Aプラクティス」MARR330号(2022年)、『バリエーションの理論と実務』(共著、日本経済新聞出版、2021年・第16回M&Aフォーラム正賞受賞作品)、『論究会社法‐会社判例の理論と実務』(共著、有斐閣、2020年)など多数。
フィデューシャリーアドバイザーズ HP(https://fiduciary-adv.com/)
経済産業省は2022年7月に「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を改訂した。その中で筆者が欧米諸国との比較で特に興味深いと思った点をいくつか紹介する。