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【会計コラム】気候変動問題と企業経営

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ビズサプリの庄村です。最近の天候の異常を危機的に感じている方もたくさんいらっしゃると思います。今回は気候変動と企業経営をテーマにお話しします。

1.気候変動の問題

天候が異常と体感していますが、統計データ上はどうなっているのでしょうか?

気象庁が公表しているレポートによると、統計期間1891年から2020年までで世界の年平均気温は100年あたり0.75℃の割合で上昇し、日本の年平均気温は100年あたり1.26℃の割合で上昇しています。また、2020年の世界と日本の年平均気温は統計開始以降最も高くなっているようです。

さらに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書では、気温上昇の基本的な要因として、人為起源と自然起源のそれぞれについてシミュレーションで分析した結果、「人間の活動の影響によって大気、海洋、陸地が温暖化していることには疑う予定がない」と断言的に報告されています。

IPCCが検討したCO2排出シナリオにおいても、地球の表面温度は21世紀半ばまでに上昇しつづけることは避けられず、2030年代始め頃までに1985年~1900年と比較して1.5℃を超える可能性があることを言及しています。

地球温暖化に伴う気候要素変動として、気温の上昇の他、大雨や洪水、海面水位の上昇による熱波や干ばつがあります。これらは人間だけではなく、地球に住む動植物のなどの生態系にも影響を及ぼします。また、農作物が被害にあい食料安全保障にも大きな問題を引き起していきます。

2.気候変動への世界の取組み

このまま地球温暖化を見過ごしていくと、気候変動により世界中に大きなリスクをもたらしてしまします。そこで何とか人為起源による地球温暖化を食い止めるよう世界ではいろいろな取り組みをしています。

1992年に開催された、いわゆる地球サミットで「気候変動に関する国際連合枠組条約」を採択し、地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことに合意し、1995年から毎年、気候変動枠組条約締結会議(COP)がされています。1997年のCOP3では京都議定書、2015年のCOP21ではパリ協定が採択されています。

京都議定書では、先進国のみに排出量の削除目標義務が課せられましたが、パリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする。」という世界共通の長期目標を掲げ、途上国を含むすべての参加国に排出削減の努力を求める枠組みとなっています。

2015年に国連加盟国(193国)は、より良き将来を実現するために今後15年間をかけて極度の貧困、不平等・不正義をなくし、私たちの地球を守るための計画「アジェンダ2030」を採択し、この計画を具体化した「持続可能な開発目標」(SDGs)を掲げました。SDGsの全目標17のなかで「気候変動に具体的な対策を」という目標が挙げられています。

各国の政府のみならず、世界中の法人や個人もSDGsを達成すべく動き出していきました。

3.TCFDによる提言

こういった気候変動問題を含めたSDGsへの取り組みは様々なところから関心を集めていますが、特に金融機関を含め投資家の中でも関心が高まっていきました。そこで、2015年にG20の要請を受けて、金融安定理事会(FSB)の下部組織として、TCFD(気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)という組織が設立されました。

TCFDは投資家等の適切な判断を促すための効率的な気候関連の情報開示及び気候変動への金融機関の対応を検討することを目的としています。

投資家へ提供する情報は従前の会計情報中心の財務情報のみだけではもはや不十分であり、財務に影響を及ぼすような気候変動関連のリスクと機会についての情報を含めた開示がなければ投資意思決定が困難となってしまうためです。

TCFDでは投資家による投資意思決定に支援するため気候関連のリスクや機会に関する情報の開示を要求しています。「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」及び「指標と目標」の4つ中核的要素を上げ、「推奨される開示」を提言しています。

4.気候変動問題を含むSDGsへの日本での対応

現状、日本の上場会社には気候変動に関する開示を求める法令上のルールはありません。しかし、2021年度改訂のコーポレートガバナンス・コードでは、上場会社に自社の気候変動を含むサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきであるとしています。

また、特にプライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を多内、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実をすすめるべきだとしています。

さらに、金融審議会ディスクロージャワーキング・グループ(以下、「DWG」という。)では、現時点で有価証券報告書の中でばらばらに記載されている気候変動を含むサステナビリティ情報を「サステナビリティ情報の記載欄」を新設し、情報を集約することが提言されています。「サステナビリティ情報の記載欄」には、TCFDで推奨されている開示として、「ガバナンス」と「リスク管理」は全企業の開示項目とし、「戦略」と「指標と目標」は全企業に開示を求めず、各企業が重要性を判断して開示すべき事項としています。
こちらはまだ確定していませんが、2023年3月期から記載を義務付ける方針となっています。

上場会社はサステナビリティ開示への対応も必要になってきますが、単なる記載にとどまらず、世界中が新しい枠組みの中で活動していくための新たなビジネスチャンスととらえ、気候変動問題を含むSDGsに積極的に取り組んでいってもらいたいと切に願います。

文:庄村裕(ビズサプリパートナー 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.158 2022.8.25)より転載

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