アクティビスト株主による提案は、その対応に時間と社内リソースが割かれ、本業に集中できなくなるため、経営陣にとっては厄介な存在かもしれない。また、アクティビスト株主が算定した株式価値は「理論値」であり、その提案も実現性が乏しく、空虚に感じるかもしれない。しかし、実証研究に鑑みると、アクティビスト株主に狙われている会社は、戦略やガバナンスに何らかの課題があるケースが多い。
PBR(=PER×ROE)が1倍を切った会社(株価が安い会社)、ROAがROICと乖離している会社(余剰資産が多い会社)、ROEがROICよりも低い会社(財務レバレッジが低い会社)、そしてTSR(Total Shareholder Return: 株主総利回り)が低い会社が多いことはその証左ともいえる。
ボストン・コンサルティング・グループは、アクティビスト株主の視点で自社を客観的に分析し、彼らがどのような提案してくるかをシミュレーションすることを「DIY(Do-It-Yourself)アクティビズム」と呼び、自社または外部の検討チームを組成し、検討チームが洗い出した提案事項に企業価値を高めるために意義があるものがあれば、これ率先して取り入れ、実行に移し、一方、自社として受け入れがたいものがあれば、自社の主張がアクティビスト株主の提案よりも企業価値に資するものであると論理的に説明できるか、またはそれが投資家から信頼を得られるかを経営陣で議論することが大切であり、これがアクティビスト株主による介入の予防的な措置という。
日立製作所の経営陣が事業ドメインを再設定、グループ事業を再構築し、5年間にわたる180億ドルのダイベストメントによって株価を向上させ、アクティビスト株主を寄せ付けなかった(kept activists at bay)ことは記憶に新しい。
ファイナンシャル・アドバザイリー・ファームであるLazardによると、2021年に世界で開始されたアクティビスト株主による新たなキャンペーンは173件あったが、2022年は1月から3月の期間で既に73件となり、記録的なペースで増加している。これを「脅威」と捉えるか、「機会」と捉えるか、その判断は難しいが、これを契機にして自社の戦略やガバナンスを見つめ直すことは有益であると思われる。
<参考文献>
・井口益男=浅野敬志(2021)「アクティビストの標的企業とその属性」証券経済研究116号83-103頁
・加来一郎=坂上隆二(2022)「アクティビストの手法論の活用による日本企業の価値創造-日本版バリュークリエーターズ・ランキング2022」
・Becht, M., Franks, J., Miyajima, H., Suzuki, K.(2021) Outsourcing Active Ownership in Japan (May 31, 2021). European Corporate Governance Institute – Finance Working Paper No. 766/2021.
・Lazard(2022)「Lazard's Quarterly Review of Shareholder Activism – Q1 2022」(Apr. 19 2022).
文:吉村 一男