M&A法制を考える 反アクティビスト・ピル(The Anti-Activist Pill)の許容性

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米国の買収防衛策に関する判例法理

「アクティビストを考える(下)アクティビスト株主によるCreeping Acquisitionと買収法制」で触れたように、わが国も、株主アクティビズムが活発化し、「市場内買付け」による敵対的買収が現れ、最高裁判所でこの防衛策が議論となり、株主のうち、買収者とその関係者および対象会社の取締役その関係者を除いた利害関係のない株主(いわゆる「MoM(Majority of Minority)」)の判断による防衛策は、「3分の1を超える市場内買付け」に限り肯定されたものの、「それ以外の買付け」に対する防衛策の許容性は必ずしも明らかでない。

それでは、わが国と同様、買収防衛策を許容し、裁判所がその範囲を決定する米国デラウェア州の裁判所はどのような判断をしているのか。

リーディングケースである1985年のUnocal事件において、最高裁判所は、以下の2つの要件を満たした場合には、取締役会による買収防衛策を肯定した。

① 取締役会が会社の政策もしくは機能に対する「脅威」が存在したと結論付けるための合理的な根拠(reasonable ground for concluding that a threat to corporate policy existed)があること

② 取締役会による買収防衛策が「脅威」に対して合理的(reasonable in relation to the threat posed)」なものであること

これは「Unocal基準」と呼ばれ、買収者の持分を希釈化させる効果を持つ差別的新株予約権無償割当(ライツプランもしくはポイズンピル)も対象とされている(1985年のHousehold 事件)。また、②の取締役会による買収防衛策は、「強圧的(coercive)」でも「排除的(preclusive)」でもなく、かつ、「合理的な範囲内(range of reasonableness)」に収まるものとされている(1995年のUnitrin事件)。

なお、取締役会による買収防衛策が「株主の議決権(shareholder franchise)」の行使を阻害することになる場合には、取締役会が自己の行為について「やむにやまれる正当化事由(compelling justification)」を立証しなければならず(1988年のBlasius事件)、2002年のMM Companies事件において、最高裁判所もこれを採用した。これは「Blasius基準」と呼ばれている。

Williams事件

このような中、2021年に注目すべき司法判断があった。Williams事件である(Williams Cos. Stockholder Litig., No. 2020-0707-KSJM, 2021 WL 754593 (Del. Ch. Feb. 26, 2021).)。

この事件は、パンデミック前から55%株価が急落し、アクティビスト株主によるCreeping Acquisitionを恐れた天然ガス会社であるWilliams Companies, Inc.(Williams)の取締役会によって導入・発動された以下のような反アクティビスト・ピル(The Anti-Activist Pill)の許容性が争われた事件である。

① 取締役会が懸念する脅威
不確実な時期に株主アクティビストを防ぎたいという願望(アクティビズムの脅威)
正体不明のアクティビストが短期的なアジェンダを求める恐れ(ショートターミニズムの脅威)
アクティビストが株式の5%以上を急速に買い付ける懸念(急速な買付けの脅威)

② 取締役会による買収防衛策
発動は、株式の5%以上の「取得」もしくは「協調行動」
「取得者」は、会社の実質的所有者およびオプションやデリバティブを獲得した者
「協調行動」は、相当量の株主とのコミュニケーションを含む
会社の方向性に影響を与えようとしないパッシブ投資家は除く

    下級審裁判所(衡平法裁判所)は、Unocal基準①について、Williamsの取締役会は、過半数の社外独立取締役で構成され、複数回の取締役会を通じて真摯な審議を行ったと述べたものの、「アクティビズム」や「ショートターミニズム」に対する取締役会の懸念は、会社の政策または機能に対する有効な脅威ではないと判断した。「急速な買付けの脅威」については明確に述べていないが、脅威であると仮定している。

    また、Unocal基準②については、原告が議論を放棄したため、ピルが強圧的か排除的かは述べなかったものの、「5%の発動」は非常にまれであり、「協調行動」の定義が株主とのコミュニケーションを阻害するため、脅威に対して不合理であると判断した。

    そこで、Williamsは最高裁判所に上訴した。

    専門家の議論と最高裁の判断

    下級審裁判所(衡平法裁判所)の判断に対して、コロンビア大学ロースクールのGordon教授は、以下のような見解を公表した。

    ・アクティビスト株主による圧力は、企業を長期的ではなく短期的に考えさせ(アクティビストとの戦いに明け暮れる経営者は、長期的に大きな価値を生み出す投資、例えば、研究開発を短絡的に行っている)、株主価値を重視するあまり、所得と富の不平等を拡大させる(株主に最高のリターンをもたらすことに集中する経営者は、従業員の賃金を抑制し、賃金の伸びを抑制する)かもしれない。
    ・しかし、The Anti-Activist Pillを司法が承認すれば、ESGアクティビズムが消滅する可能性がある。
    ・The Anti-Activist Pillは、取締役会が株主から提案された買収を審査することを目的とする本来のピルとは異なり、株主の圧力から取締役会を保護することを目的としている。
    ・下級審裁判所(衡平法裁判所)は、Unocal基準を適用し、「取締役会による買収防衛策が急速な買付けの脅威に対して不合理である」ことを理由にピルを否定したが、The Anti-Activist Pillの目的は「株主の投票抑制(vote suppression)」であるため、Blasius基準を適用し、「取締役会がやむにやまれる正当化事由を立証できない」ことを理由に否定すべきである。

    一方、ニューヨークの大手法律事務所であるWachtell, Lipton, Rosen & KatzのRobinson弁護士は、「デラウェア州の裁判所は、36年間にわたりポイズンピルの採択にUnocal基準を適用しているため、Blasius基準を適用しようとするGordon教授の見解には同意できない」との見解を公表した。

    両者の見解は、The Anti-Activist Pillの内容に鑑み、Unocal基準を満たせば買収防衛策を許容するのか、取締役会に正当事由の立証まで求めるかという点が異なる。

    最高裁判所は、詳細な説明なく、下級審裁判所(衡平法裁判所)の判断を支持し、「取締役会による買収防衛策が急速な買付けの脅威に対して不合理である」ことを理由にピルを否定した(The Williams Cos., Inc. v. Wolosky, No. 139, 2021, 2021 WL 5112495 (Del. Nov. 3, 2021).)。

    わが国の買収防衛策に関する判例法理の行方

    このように、米国デラウェア州の裁判所は、取締役会によるThe Anti-Activist Pillに否定的だが、「取締役会が懸念している脅威」や「取締役会による買収防衛策の脅威に対する合理性」を審査している。一方、わが国の裁判所は、「アクティビストを考える(中)アクティビスト株主による敵対的買収とその防衛策」で触れたように、取締役会による買収防衛策に否定的だが、市場内買付けが3分の1を超える場合に限り、株主(MoM)の判断を尊重している。したがって、米国の買収防衛策に関する判例法理は必ずしも参考にならないかもしれない。

    もっとも、東京大学の田中教授は、わが国の裁判所は今後、たとえ「3分の1を超える市場内買付け」以外の場合であったとしても、MoMに基づく買収防衛策を発動する余地を認めるかもしれないが、その際には「買収防衛策の必要性および相当性」が認められるかを厳格に審査することが考えられるという。その例として、「買収者の属性、言動や過去の行動、買付けの規模や買付け方法」などを挙げている。

    これは、米国デラウェア州の裁判所が審査している「取締役会が懸念している脅威」および「取締役会による買収防衛策の脅威に対する合理性」の考え方が参考になる。

    米国デラウェア州の買収防衛策に関する判例法理を学ぶことは、Creeping Acquisitionに対する防衛策の予測可能性を高めることにもつながるものと思われる。

    【参考文献】

    田中亘(2021)「防衛策と買収法制の将来〔下〕-東京機械製作所事件の法的検討-」旬刊商事法務2287号32-45頁

    Gordon, Jeffrey N. (2021) Corporate Vote Suppression: The Anti-Activist Pill in The Williams Companies Stockholder Litigation, Colum. L. Sch. Blue Sky Blog (August 19, 2021).

    Robinson, Eric S. (2021) The Anti-Activist Pill in The Williams Companies Stockholder Litigation: A Response to Professor Gordon, Colum. L. Sch. Blue Sky Blog (September 1, 2021).

    文:吉村一男

    吉村一男 (よしむら・かずお)

    フィデューシャリーアドバイザーズ 代表
    上場事業会社、大手証券会社の投資銀行部門を経て、現職。平時の株主価値向上のコンサルティング業務、株主総会におけるアドバイザリー業務、M&Aにおけるアドバイザリー業務、投資業務などに従事。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター(WBF)の招聘研究員に嘱任し、企業法とファイナンスに関する研究に従事。著書は、「構造的な利益相反の問題を伴うM&Aとバリュエーション―理論と裁判から考える現預金と不動産の評価―〔上〕〔下〕」旬刊商事法務2308号・2309号(共著、2022年)、「米国の裁判から示唆されるわが国のM&Aプラクティス」MARR330号(2022年)、『バリエーションの理論と実務』(共著、日本経済新聞出版、2021年・第16回M&Aフォーラム正賞受賞作品)、『論究会社法‐会社判例の理論と実務』(共著、有斐閣、2020年)など多数。

    フィデューシャリーアドバイザーズ HP(https://fiduciary-adv.com/


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