公開日付:2017.10.10
2018年4月の診療報酬と介護報酬の同時改定を前に、2017年1-9月の「医療,福祉事業」倒産は累計186件に達した。このペースで推移すると、倒産件数は介護保険法が施行された2000年以降で最多になる可能性が高くなった。
また、負債総額は大型倒産が前年同期より倍増したため、9月までですでに前年を上回った。ただ、全体では負債1億円未満の小・零細規模が83.3%を占めており、小規模企業が件数を押し上げている。
高齢化社会の成長産業として注目される医療,福祉業界だが、介護職員の人手不足が深刻化するなど、経営のかじ取りが難しさを増し、業界内では淘汰の動きが加速している。
※調査対象の「医療,福祉事業」には、病院、医院、マッサージ業や鍼灸院などの療術業、老人福祉・介護事業などを含む。
2017年1-9月の「医療,福祉事業」倒産は、186件(前年同期155件)で、前年同期比20.0%増のハイペースで推移している。
このままの状況で推移すると、介護保険法が施行された2000年以降で最多件数を更新する可能性が高くなった。
2017年1-9月の負債総額は326億700万円(前年同期比82.5%増)で、9月の段階ですでに前年(1-12月)の負債(306億4,500万円)を上回った。
この要因は、負債10億円以上の大型倒産が8件(前年同期4件)と倍増していることが大きい。ただ、倒産全体では負債1億円未満が155件(構成比83.3%)と8割以上を占め、前年同期と比較しても23.0%増(前年同期126件)と大幅に増加している。
業種別では、マッサージ業、整体院、整骨院、鍼灸院などを含む「療術業」が57件(前年同期比50.0%増、前年同期38件)、「病院・医院」が22件(同29.4%増、同17件)、「障害者福祉事業」が18件(同125.0%増、同8件)と増加が目立った。
一方、ここ数年の倒産増勢が目立つ「老人福祉・介護事業」は71件(同7.7%減、同77件)と前年同期を下回ってはいるが、2年連続で年間100件超えの可能性を残し、高止まりで推移していることに変わりがない。
原因別では、最多が販売不振(業績不振)の104件(前年同期比4.0%増、前年同期100件)で、全体の過半数(構成比55.9%)を占めた。次いで、事業上の失敗が39件(前年同期比85.7%増、前年同期21件)、既往のシワ寄せ(赤字累積)が12件(同33.3%増、同9件)の順。
業種ごとにみた原因別では、「療術業」では販売不振が42件(構成比73.6%)と7割を占め、同業他社との厳しい競争を浮き彫りにした。「病院・医院」も販売不振が13件(同59.0%)と約6割になり高率を示した。
また、「老人福祉・介護事業」は、販売不振が32件(同45.0%)だった一方で、「事業上の失敗」が17件(同23.9%)と2割を占めたのが目を引く。これは、安易な起業や本業不振のため異業種からの参入失敗など、事前準備や事業計画が甘い小・零細規模の業者が思惑通りに業績を上げられず経営に行き詰まったケースが多いとみられる。
形態別では、事業消滅型の破産が168件(前年同期比15.0%増、前年同期146件)と全体の9割(構成比90.3%)を占め、業績不振に陥った事業者の再建が難しいことを浮き彫りにした。
また、再建型の民事再生法は14件(前年同期4件)と増加した。この14件の主な内訳では「病院・医院」が6件(前年同期1件)、「老人福祉・介護事業」が4件(同ゼロ)、「療術業」が2件(同3件)など。「病院・医院」の中には、地元では大規模な総合病院を経営していた地方の有力病院もみられた。
地区別では、全国9地区すべてで倒産が発生した。近畿の65件(前年同期44件)を筆頭にして、関東55件(同53件)、九州22件(同18件)、中部16件(同13件)、中国12件(同5件)、北海道7件(同5件)、東北3件(同9件)、北陸3件(同6件)、四国3件(同2件)の順。 前年同期より上回ったのは、北海道・関東・中部・近畿・中国・四国・九州の7地区。減少は東北と北陸の2地区だった。
病院・医院や老人福祉・介護事業などを含む「医療,福祉事業」の倒産は、2017年は9月までで、6月と7月を除いて前年同月を上回っている。また、2017年は月平均20.6件ペースの発生で、このままで推移すると年間倒産が250件に近づく勢いをみせている。
東京商工リサーチの調査では、全国の医療,福祉事業者1万4,834社の2017年3月期決算は、「増収増益」企業の構成比が33.1%に対し、「減収減益」企業も同29.1%と拮抗している。
さらに、「減益」企業は51.4%と半数を超え、同業との競合や人手不足を補うための人件費上昇が収益悪化につながり、収益確保が難しいことが透けて見える。
2018年4月に控える診療報酬と介護報酬の同時改定は、医療費と介護費の抑制圧力が高まる中で、医療機関や介護事業者には厳しい内容になることが予想されている。医療・福祉関連業界では、これまで以上に淘汰の波が強まることも危惧され、今後の動向から目を離せない。
巨額のリコール問題に揺れるタカタ。東京商工リサーチのアンケート調査によると、同社のグループ企業と取引する企業の約9割が、今後も取引の継続を望んでいることがわかった。
脱毛サロンの「エタラビ」が倒産した。負債総額は約49億6400万円と現時点ではエステティック業界で過去3番目の大型倒産で、一般会員約9万人が影響を受ける可能性があるという。