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神秘と脅威が混在する森に隠された、人類への問いかけ『ぺルリンプスと秘密の森』

※この記事は公開から1年以上経っています。
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(c) Buriti Filmes, 2022

先の見えない、不確実な時代を生き抜くには、これまでにない視点や発想を生み出すことが不可欠だ。昨今、ビジネスにおけるイノベーション創出の一つの手法として「アート思考」が注目されている。

アート思考を身につけるには、美術鑑賞や創作活動なども有効だが、今、もっともおすすめの方法がある。それは、眩い色彩美とともに多くの問いを投げかけるアニメーション映画『ぺルリンプスと秘密の森』(12月1日公開)の鑑賞だ。

本映画は『父を探して』(2013)が第88回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされたアレ・アブレウ監督の最新作である。ブラジル出身のアブレウは、アニメーションの新潮流“イベロアメリカ”の牽引役を担う、気鋭の監督だ。

巨人による破壊から魔法の森を救うため、「ペルリンプス」を探す2人のエージェントの冒険を描いた長編アニメーション。こびりついた固定概念を取り払い、感性や想像力、思考力を自由に巡らせ、魅惑の森に没入しよう。

<STORY>

物語の主人公は、二人の秘密エージェント。テクノロジーを駆使する「太陽の王国」のエージェント・クラエと、自然との結びつきを大切にする「月の王国」のエージェント・ブルーオだ。二人は、それぞれの国から、巨人による破壊の危機にある魔法の森に派遣されている。

クラエはオオカミの耳にキツネのしっぽを持ち、ブルーオはクマの耳にライオンのしっぽ、ホタルの目を持つ、どちらも愛らしくて神秘的なキャラクター。「太陽」と「月」という正反対の世界からやってきた二人は、それぞれ独自の文化を持ち、性格や特技もまったく異なる。両国は一世紀に渡って対立を続けてきた。

(c) Buriti Filmes, 2022
(c) Buriti Filmes, 2022

敵対する二人の目的は、どちらも同じ。森を救うという謎の存在「ペルリンプス」を見つけることだ。最初は「この森は我が国のものだ!」「なんだと、侵略者め!」と反発しあっていた二人だが、ペルリンプスの手がかりを探すうちに、自然と協力し合うようになり、最高のコンビになっていく。

やがて、物語は思いがけない結末を迎えることに――。そこに隠された現代への問いかけとは?

独自の色彩パレットが「魔法の森」を鮮やかに描き出す

今、この記事を読んでくださっているあなたは、本作のイメージ画の美しさに、すでに魅了されていることだろう。アブレウ監督は、マティスやパウル・クレーなどの絵画から多くの着想を得て、誰も見たことのない「魔法の森」を創り上げた。

(c) Buriti Filmes, 2022
(c) Buriti Filmes, 2022

その手法は、アナログとデジタルを融合した技術だという。まず、アクリル絵の具を使って紙の上で下地を作り、次に手描きのインクの染みを用いてコンピュータ上で実験を重ね、意味のある色の組み合わせを決めていく。この作業を繰り返し行い、独自の“カラーパレット”を生み出したのだ。

アブレウ監督が色彩の描写にこだわったのには理由がある。監督は、この「魔法の森」を「遊び心に富んだ自由な子ども時代を象徴する空間」と捉えているからだ。

子ども時代に培った能力の重要性について、監督はこう述べている。

「子ども時代は、あらゆることが可能だと信じる力があり、それはとても強い希望となり、大人になってからも私たちの中にある光のようなものだと思います」

では、子ども時代に蓄えた力は、いつ、どんなときに発揮されるのだろう。

「私たちは成長し、巨人となり、その力のことは忘れてしまいます。でも、この力は実は私たちの中に眠っていて、一番困難な時期になると私たちを導いてくれる光になるのです」

そう語る監督の言葉は、本映画の本質に深くつながっている。

「光と闇」「巨人と子ども」などの対比の概念が、思索を深めるきっかけに

筆者は本記事の冒頭で、この映画が「アート思考」を育むのに大いに役立つ、と述べた。

たとえば、美しい映像や音楽などの“五感”を通して自分なりの解釈をしたり、登場人物の気持ちを想像したり、作品に埋め込まれた意味やメッセージを言葉で表現するなど、いろいろなアプローチが考えられる。

また、この映画には、ストーリーや映像のあちこちに、数多くの対比の概念が見られる。

「太陽と月」、「光と闇」、「巨人と子ども」、「善と悪」、「希望と絶望」、「自然と人工物」、「自由と束縛」、「破壊と創造」、「瞑想と活力」など……。

こうした対比の概念をトリガーとして、自分の中で問いを立て、自由に思索を深めてみるのはどうだろう。きっと作品に対する理解が深まるだけでなく、新たな発想や価値観を育むことにもつながるはずだ。

(c) Buriti Filmes, 2022
(c) Buriti Filmes, 2022

最後に、この映画をこれから観る方(またはすでに観た方)に、一つだけ質問をしたいと思う。

「“ぺルリンプス”って、いったい何でしょう?」

あなたなりの答えを、ぜひ聞かせてほしい。正解は、観る人の数だけ存在する。

文:小川こころ(文筆家/文章スタジオ東京青猫ワークス代表)

<作品データ>

脚本・編集・監督:アレ・アブレウ(『父を探して』)
音楽:アンドレ・ホソイ/オ・グリーヴォ
2022年 ブラジル /原題:Perlimps/スコープサイズ/80分/日本語字幕 星加久実
後援:駐日ブラジル大使館
配給:チャイルド・フィルム/ニューディア―
劇場公開日:2023年12月1日、YEBISU GARDEN CINEMA ほかロードショー
公式サイト https://child-film.com/perlimps/

(c) Buriti Filmes, 2022
(c) Buriti Filmes, 2022

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