SkySense株式会社は、飛行船型HAPS(High Altitude Platform Station)を開発し、成層圏からの地球観測データを提供する航空宇宙スタートアップだ。東工大発ベンチャーとして2024年に設立。JAXAが2000年代に取り組んでいた成層圏プラットフォームプロジェクトの技術移転を受け、現在は実証機1号の開発を進めている。
衛星データは広域撮影に優れる一方で、解像度と撮影頻度に限界がある。航空撮影は高解像度だが、撮影範囲とコストに課題がある。HAPSは高度約20キロの成層圏に長期滞空し、両者の弱点を補うデータを低コストで提供できる可能性があるとして注目されている。
SkySenseは、1日あたり約1700km²の観測範囲、約8センチのPoC実証解像度、6カ月以上の連続滞空設計を目標に掲げる。2029年ごろの商用機完成を見据え、段階的な実証機開発を進めている。
創業者 兼 CEOのアドディン パヴェル氏はカザフスタン出身。2008年に来日し、東京工業大学での研究を経て11年以上ロボット開発に従事してきた。ハードウェア開発と機構設計を専門とする技術者で、日本国籍を取得後に同社を立ち上げた。飛行船型HAPSの開発に取り組むに至った背景から、ゼンリンとの共同PoC、そして2030年代に向けたHAPS純国産化構想まで話を聞いた。

──飛行船型HAPSという事業の着想はどこから来たのですか。
アドディン パヴェル氏:正直に言うと、最初は「飛行船を作りたかった」というのが出発点です。ジブリの映画に登場する飛行船が好きで、いつか作りたいという気持ちがずっとありました。
ただ、作るだけでは誰も使ってくれないので、世の中にとって意味のある事業にしたかった。そこでさまざまな用途を探ったところ、地球観測の分野に非常に多くの課題があり、HAPSデータの需要が高いことが分かりました。もともとのシーズとしての飛行船と、市場のニーズがうまく合致した形です。
──地球観測の課題とは、具体的にどのようなものでしょうか。
現在、この分野では主に2種類のデータが使われています。衛星による撮影データと、航空撮影によるデータです。それぞれに長所と短所があって、現状ではすべての要件を満たすデータが存在しません。
衛星は広域を比較的安く撮影できますが、解像度と撮影頻度が足りないケースが多い。航空撮影は地上に近いので高解像度になりますが、撮影範囲が狭く、コストも大きい。
エンドユーザーである自治体や行政機関のニーズに応えるには、高い解像度と高い観測頻度を低コストで実現する必要があります。HAPSは高度約20キロの成層圏に配置することで、その要件を同時に満たせると考えています。

──HAPSにはソフトバンクなどが取り組む固定翼型もありますが、飛行船型を選ばれた理由は何ですか。
大きな理由の一つは、現状の小型・軽量な固定翼型HAPSでは、日本上空のジェット気流(上空の強い偏西風)を越えて成層圏に到達することが難しいという課題があるからです。
固定翼型は、翼によって生まれる揚力で飛びます。そのため、機体の対気速度が重要になります。一方、日本の上空には非常に速いジェット気流が吹いています。軽く作れば横風や乱流の影響を受けやすくなり、重く大きく作れば今度は成層圏で飛ぶことが難しくなる。非常に難しい課題があります。
それに対し飛行船型は、揚力ではなく浮力の原理で飛びます。機内のヘリウムや水素ガスによって浮くため、ジェット気流に流されたとしても、飛べなくなるわけではありません。日本で離発着でき、整備・点検も国内で完結できる。これは、防衛関連用途での運用性にも直結する大きなメリットです。
コスト面でも飛行船は優位です。同等のペイロード(有償荷重)で比較した場合、製造コストは固定翼型の5分の1から10分の1程度になると見ています。滞空時間も長くできるため、運用コストも下げやすいと考えています。
──商用機では6ヶ月以上の連続滞空を目指しているとのことですが、運用や整備はどのように行うのですか。
最終的には、全国に20機から40機規模で配置しコンステレーションを構成することを想定しています。40機前後になると、全国をほぼ2時間以内に撮影できる体制が構築できます。
それぞれのHAPSは、6カ月の滞空後に地上に戻り、整備・点検を行って再び成層圏に上げる、というサイクルを交互に繰り返します。整備ができる拠点を全国数カ所に設けて、ローテーションで回していくイメージです。
──現在の反響や協業の状況を教えてください。
地球観測データを扱うデータソリューション企業とは、すでに多くの対話を重ねています。今、最も具体的に進んでいるのはゼンリンです。すでに意向表明書(LOI)を取得し、今年度中の共同PoC実施に向けて準備を進めています。その先には、地図データの更新に私たちのHAPSで取得したデータを活用してもらう見込みです。
HAPSデータをそういったデータソリューション企業に提供することで、その先にいるエンドユーザーである国や地方の行政機関、企業に価値を届けていきます。
地球観測以外では、防衛関連用途についても関係機関との対話を進めています。「日本で離発着・整備ができる純国産機」という特性は、この領域での運用性の高さにもつながります。
──ASTRO GATE、銀星アド社とも実証実験を行われていましたね。
ロケット打ち上げ時に設定される警戒区域内に漁船などが立ち入らないよう監視するという用途で、PoCを実施しました。
まだ飛行船の試作機がない段階なので、係留気球を用いて500メートルの高度から観測機器の実証実験を行いました。上空でも安定した撮影ができること、航空撮影並みの解像度を達成できることを確認しています。また、協力会社が持つ画像改善処理の技術を活用することで、夜間観測も可能になる見込みです。
10センチ以下の解像度を実現できれば、船舶の属性や詳細、自動車、人の存在まで観測できるようになります。将来的には、従来の航空測量を代替できる可能性もあると考えています。


──特許の取得状況はいかがでしょうか。
JAXAが以前取り組んでいた特許は20年以上前のものなので、すでに失効しています。ただ、HAPSはさまざまな技術が絡む領域です。機体製造、推進機、専用カメラ、データ処理、外皮膜など、幅広い分野で20件から40件程度の特許取得が可能だと考えています。優先度をつけながら、これから取得を進めていきます。
──HAPSコンステレーションは、衛星コンステレーションを代替するものでしょうか、それとも補完するものでしょうか。
補完関係になります。衛星は現状、航空撮影レベルの解像度には届いていません。また、軌道を回り続けるため、同じ場所を継続的に観測することができません。
一方、私たちのHAPSは、高解像度で定点観測ができます。衛星で広く全体を把握した後に、HAPSでピンポイントに高解像度で調べる。あるいは、特定の場所を継続的に観測する。そうした使い分けが想定されます。衛星を置き換えるのではなく、それぞれの特性を活かしながら補完していく関係になると考えています。
──国内で量産体制を構築するうえで、課題になるのは何でしょうか。
サプライチェーンの構築です。それぞれの要素技術は日本にも存在しますが、量産化が進んでいてコストが下がっているのは海外の方が多い。たとえば、成層圏用のモーターを開発している国内企業はまだ少なく、コスト見通しも固まっていないのが現状です。
ドローンやeVTOLなどで使われるモーターも活用し、国内でサプライチェーンを構築していきたい。モーターや外皮膜、カメラ・レンズといった主要部品ごとに国内の協力先を広げ、国内で製造できる体制をつくっていきたいと考えています。
──今後の開発計画について聞かせてください。

2029年ごろまでに商用機を完成させることを目標に据えています。商用機は全長約50メートル規模を想定していて、開発は実証機1・2・3の3段階で進めます。
現在は実証機1号の小型機を開発しており、2026年11月までに試験飛行を実施する予定です。推進機と制御システムはすでに完成しており、現在はセンサーの詳細設計に取り組んでいます。
実証機1号の目的は、「地上から制御可能な飛行船のMVP」です。まずは成層圏ではなく、低高度域で飛ばして制御できることを実証します。その後、外皮膜やカメラ・レンズの共同開発を開始し、各要素技術の作り込みに進んでいく計画です。
商用機の完成時期に合わせて機体の認証を進め、全国で運用できる体制を整える計画です。その後は機数を増やし、全国、そして海外へと展開していきます。最終的には国内で量産工場を立ち上げ、準国産化を進めながら、衛星や航空機では拾いきれなかった地球観測のニーズに応えていきたいと考えています。
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