トヨタは完全子会社化の目的を「社会システムやクルマへのソフトウェアの実装を加速していくにあたって、両社の関係強化を図るため」としているが、ウーブンの財務状況では事実上の「救済合併」と見られても仕方ない状況だ。巨額の赤字を抱え、利益剰余金も大幅なマイナスとなっているウーブンの企業価値は、豊田会長の出資時に比べれば大きく毀損(きそん)しているのは間違いない。
そうなれば株の買取金額は、出資時の50億円を大きく下回るはずだ。株主にとっては、業績の悪い会社を割高で買収したことになり、トヨタ経営陣が善管注意義務違反を問われることになりかねない。一般に手続きを行った時点で入手できる情報に基づいて不合理でない判断ができていれば、善管注意義務違反は生じない。つまり「実際に買収してみたら、思いのほか事業内容が悪かった」のであれば、善管注意義務違反ではないのだ。
ただ、ウーブンはトヨタが95%、同社の豊田会長が5%の株式を保有する事実上の完全子会社で「知らなかった」は通用しない。もちろん、現在は赤字でも将来に利益増が見込める、あるいは完全子会社化によるシナジー効果が期待できるのであれば、高値での買収もありうる。
その場合はウーブンの収益を明らかにし、株主に「割高な合併ではなかった」との説明責任を果たす必要があるだろう。完全子会社化をいいことにウーブンの収益状況をうやむやにすれば、「身内」である豊田会長に不当な便宜供与を図ったと疑われかねない。トヨタにはウーブンの財務内容についての情報公開を続けていく義務がありそうだ。
文:M&A Online
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