トヨタによる豊田会長保有株「1億円上乗せ」買い取りは妥当か

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ウーブン・バイ・トヨタに50億円を出資した豊田章男会長(Photo By Reuters)

トヨタ自動車<7203>が9月27日、子会社のウーブン・バイ・トヨタ(東京都中央区、旧ウーブン・プラネット・ホールディングス)を完全子会社化すると発表した。同社は車載ソフトウェアや自動運転、スマートシティー「ウーブン・シティ」などの開発を手がけている。同社株のうち95%は親会社のトヨタが保有しており、残る5%は豊田章男会長が個人で50億円を出資している。報道によると、トヨタは豊田会長保有株を51億円で買い取る。問題は買取額の妥当性だ。

定期金利の400倍もの収益をあげたウーブン投資

豊田会長のウーブン出資は2021年6月に提出した有価証券報告書で、同年3月末までに実施したことが明らかになっている。これを「資金運用」と見れば、50億円の元手がおよそ2年半で1億円の運用益を生んだわけだ。年利に換算すると約0.8%。大手都市銀行の「スーパー定期」は年利0.002%なので、400倍もの高利回りとなる。

もちろんウーブンの業績が好調ならば企業価値も上昇するので、同0.8%の運用利回りでも割高とは言えない。では、同社の業績はどうだったのか?2023年3月期の決算公告によると、売上高は前期比5.6%増の240億5700万円ながら純損益は1062億1300万円の赤字(前期は29億3300万円の黒字)と大幅な赤字に転落している。利益剰余金も-1039億5800万円(前期は+22億5500万円)に落ち込んだ。

とりわけ豊田会長が出資した旧ウーブン・プラネットは、傘下の旧ウーブン・アルファで「ウーブン・シティ」(静岡県裾野市)や車載基盤ソフト(OS)「アリーン」の開発費が先行。2023年3月末に890億円の債務超過に陥っている。

ウーブン・バイ・トヨタの財務状況

決算期 売上高 営業利益 純利益 利益剰余金 総資産
2023年3月期 240億5700万円 ▲25億1900万円 ▲1062億1300万円 ▲1039億5800万円 1680億4700万円
2022年3月期 227億9100万円  ▲2億5900万円        29億3300万円        22億5500万円 2029億1300万円
2021年3月期   34億2001万7000円  ▲6億3242万1000円       ▲6億7878万5000円      ▲6億7878万5000円  386億2375万3000円

吸収したウーブン事業の情報公開が必須

トヨタは完全子会社化の目的を「社会システムやクルマへのソフトウェアの実装を加速していくにあたって、両社の関係強化を図るため」としているが、ウーブンの財務状況では事実上の「救済合併」と見られても仕方ない状況だ。巨額の赤字を抱え、利益剰余金も大幅なマイナスとなっているウーブンの企業価値は、豊田会長の出資時に比べれば大きく毀損(きそん)しているのは間違いない。

そうなれば株の買取金額は、出資時の50億円を大きく下回るはずだ。株主にとっては、業績の悪い会社を割高で買収したことになり、トヨタ経営陣が善管注意義務違反を問われることになりかねない。一般に手続きを行った時点で入手できる情報に基づいて不合理でない判断ができていれば、善管注意義務違反は生じない。つまり「実際に買収してみたら、思いのほか事業内容が悪かった」のであれば、善管注意義務違反ではないのだ。

ただ、ウーブンはトヨタが95%、同社の豊田会長が5%の株式を保有する事実上の完全子会社で「知らなかった」は通用しない。もちろん、現在は赤字でも将来に利益増が見込める、あるいは完全子会社化によるシナジー効果が期待できるのであれば、高値での買収もありうる。

その場合はウーブンの収益を明らかにし、株主に「割高な合併ではなかった」との説明責任を果たす必要があるだろう。完全子会社化をいいことにウーブンの収益状況をうやむやにすれば、「身内」である豊田会長に不当な便宜供与を図ったと疑われかねない。トヨタにはウーブンの財務内容についての情報公開を続けていく義務がありそうだ。

文:M&A Online

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