数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。
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『図解&イラスト 中小企業の事業承継(14訂版)』 牧口晴一、齋藤孝一著、清文社
中小企業のオーナーの事業承継は、親族、従業員等、M&A、一般社団法人の4つが行先となり、相続、贈与、譲渡、信託の4つの方法が絡みあったものというイメージに提示しながら、スムーズな事業承継について解説した指南書である。全586頁におよぶ大作で、事業承継を巡る、さまざまなトラブルにどう対処すればよいか、また事業承継にあたり、どう節税すべきかが事細かに記されている。ロングセラーであり、14訂版では、65年ぶりの大改正となった暦年贈与と相続時精算課税の概要にも触れられている。
本書から、「相続」という言葉に関連した内容を取り出すと、オーナーの死後に事業承継を巡って、親族内でもめごとに発展しないよう、生前から遺言書の作成を推奨し、それが効力を発揮するように、会社の定款から見直しを行うことが必要と説き、その対策が述べられている。また、株主代表訴訟の8割が中小企業におけるもので、私怨を晴らすための訴訟の場合もあり、スムーズな事業承継には、社長と後継者以外の第三者には安易に株式を持たせるべきではない、といった心得も記される。
「贈与」という側面からは、前述の税制改正のポイントのほか、うまく活用することで、事業承継の良し悪しが大きく変わり、これまで活用が少なかった相続時積算課税制度がどんな人に向いているかも明示され、節税対策の基本が紹介される。また、自社株の評価によって相続対策も相続税対策も影響を受けるとし、自社株の評価方法の概要なども説明している。
「譲渡」はM&Aが絡むが、本書では中小企業のM&Aでは承継形式が事業譲渡、株式譲渡のいずれを選択するかで課税額が大きく異なり、手元に残るお金の量も変わってくると解説。そうした点に触れつつ、承継形式ごとのメリット、デメリットを挙げ、中小企業では事業譲渡がもっぱら活用されていると紹介している。
ユニークなのが、4つ目の方法として記される「信託」だ。一般社団法人とは何かに触れた後で、そこに財産を移転する方法も紹介。高額な財産を移転させたり、処分に困る財産の移転に使えるといった活用例も解説している。
本書に目を通すと、留意すべきポイントのあまりの多さに辟易しそうにもなるが、上記でも挙げた定款の見直しや株主代表訴訟を未然に防ぐなど、平時から役立つ内容も多い。先々を見据えつつ足元でリスクがないかをチェックするといった読み方をするのもありだろう。
文:M&A Online