海外ビジネスマネジメント 現地法人の戦略的撤退と次世代進出|編集部おすすめの1冊
本書は実際に撤退に関わった担当者らが、手続きのやり方や、交渉の流れなどの具体的な内容をまとめたもので、11の事例と、撤退の検討の進め方や企業売却といった撤退の実務にかかわる78のQ&Aから成る。
数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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「日立の壁」東原敏昭著、東洋経済新報社刊
日本を代表する大企業の一つ、日立製作所の「社内改革」を手がけた張本人が詳(つまび)らかにした「内幕」の記録である。同社はリーマン・ショックのあおりを受け、2008年度に7873億円という製造業では当時最大となる当期赤字を計上し、深刻な経営危機に見舞われた。
日立は子会社で「上がり」ポストに就任していた川村隆、中西宏明の両氏を経営トップとして呼び戻し、大胆な経営改革に舵を切る。その後を引き継いだのが、著者である東原敏昭会長だ。戦国時代の武将にたとえれば、川村氏が織田信長、中西氏が豊臣秀吉、著者が徳川家康と言ったところか。
大河ドラマ「どうする家康」のような難しい決断を下しつつ、日立改革を仕上げていく記録である。
注目すべきところは、著者が単に先人が成した改革の「継承者」ではなく、さらなる「変革者」であることだ。
例えば川村・中内体制では日立の「大企業病」に大なたを振るい、日立情報システムズ(現・日立システムズ)はじめ上場子会社5社の完全子会社化や、独立採算の社内カンパニー制の導入を断行した。
一方、著者はかつて「日立御三家」と呼ばれた日立化成や日立金属など日立グループ各社を次々と売却。2008年度末には22社あった国内上場子会社は2022年度にはゼロとなる。
日立社内に競争原理を持ち込み、自主独立で経営判断を迅速化した社内カンパニー制も「サイロ化を招く」として廃止し、日立の最高経営責任者(CEO)が直轄するビジネスユニット(BU)制に軌道修正した。
「奇跡のV字回復」を果たし、自らをトップに引き上げてくれた「恩人たち」の経営遺産(レガシー)をひっくり返すのは勇気がいる決断だ。が、著者はその理由を論理的かつ明快に説明する。一時は「朝令暮改で経営方針が定まらない迷走状態ではないか」と疑念を呈されたが、「再変革」の裏にはきちんとした根拠と戦略があったのだ。
その証拠に2022年度(2023年3月期)の同社連結決算は、売上高に相当する売上収益が前期比6.0%増の10兆8811億円、調整後EBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)は同3.4%増の8846億円と、3期連続で最高益を更新している。
とりわけ注目したいのは日立のM&A戦略だ。著者はスイスABBのパワーグリッド事業と、 ソフトウェア製品の設計および開発サービスを手がける米グルーバルロジックを、それぞれ約1兆円で買収するなど、超大型M&Aを積極的に仕掛けている。同時にスタートアップ企業への投資によるオープンイノベーションにも積極的だ。著者が加速させたM&A戦略が、日立でどう花開くのか。これからも目が離せない。(4月6日発売)
文:M&A Online
本書は実際に撤退に関わった担当者らが、手続きのやり方や、交渉の流れなどの具体的な内容をまとめたもので、11の事例と、撤退の検討の進め方や企業売却といった撤退の実務にかかわる78のQ&Aから成る。